中・東欧、ロシアのこと&大学教育のことを発信します


by chekosan

タグ:チェコ ( 30 ) タグの人気記事

同志社で担当している「特殊講義」。今まで法学部の科目だとばかり思っていたら、どの学部でも履修できるのだと初めて知った3年目。そして実際、今年は文学部哲学科からも数名受講!学際科目だ!(?)

昨年度の講義科目受講生や春の講義科目受講生も数名受講しています。これって、とっても嬉しい☆(´∀`*) 

結果、初年度2人、2年目5人、そして今年は10人と、倍々ゲームで、とうとう二桁です(笑) 

今年は、科目のサブタイトルを「文学で学ぶ東欧・ドイツ・ロシア」と題しました。ずっとアシスタントをしてくれている院生君、科目名を見て、「どんどん範囲が広がっている! どこまでいくんだろう!」と思ったそうです。

形式上、科目の設置の条件としてサブタイトルを変える必要があったということもあるのですが、こうして範囲をゆるくしておくと読む本の選択肢が広がるからいいかなと思ったのです。( ̄▽ ̄) 

ということで、今年は過去2年、あまり読めていなかったロシアものからスタートしました。

しかし、あえて日本人作家の作品。米原万里さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』『オリガ・モリソヴナの反語法』です。

いずれも米原さん自身の少女時代の経験をベースに書かれています。チェコやロシアを舞台としたノンフィクションとフィクションです。


b0066960_19420033.jpg

関連本なども読み直して予習するの図。右にあるお菓子は米原さんの『旅行者の朝食』に出てくるハルヴァ。昨年、リトアニアで見つけ、今年はエストニアで見つけました。エストニアで買ったノートにメモをとっていきました。このノート、ロシア語練習帳のようなページが入っていて、この本のノートにぴったりです。

※『旅行者の朝食』は関西ウーマンの書評コーナーで取り上げました。




『嘘つきアーニャ』は以前に読んでいたと思ったのですが、第1部を読み始めて、あれ??

もしかしたらNHKのドキュメンタリーで見ただけだったかも? 

おませな少女の下ネタ満載で、授業で使って大丈夫だったかと苦笑。でも、もちろんそれで終わりではなくて、社会主義期のプラハの学校に集った4人の少女たちの学校生活を通して、社会情勢、国際情勢を鮮やかに描き出しています。

米原さんと3人の友人たちは長く音信不通になっていたのですが、30数年ぶりにNHKの企画で再会を果たします。

番組の方では会えた良かったで終わるのですが、『嘘つきアーニャ』の方では、過去のエピソードに加え、再会に至るまでの調査の過程や、そこでわかってきた友人たちの人生、それに対する米原さんの思いが詳しく語られます。



b0066960_19293637.jpg


『オリガ・モリソヴナの反語法』はフィクションの小説です。少女時代にプラハのソビエト学校に通っていた日本人の主人公が、ソ連の崩壊、情報公開を機に、異彩を放っていた女性教師たちの謎を解いていくという話です。

フィクションですが、歴史的事実を巧みに織り込んだリアル感たっぷりの話になっています。

主人公が謎解きをする今の時点(1992年のモスクワ)、主人公たちがプラハのソビエト学校に通っていた1960年代、女性教師たちの過去(1930年代から50年代)と、3つの時代を行き来する構成で、主人公の回想もあれば証言者の話、手記による説明などを行ったり来たりするので、一読ではわかりづらいところもあります。

そこで、『オリガ・モリソヴナの反語法』年表を手分けして作りました! 

歴史的事実と、作品中の登場人物たちの動きとをピックアップしていくと、A3で2枚分になりました。
私も最後の3章をやってみましたが、これはなかなか面白い作業でした。

細部の修正や補足などをして、クラスのみんなの共有財産にしようと思います。

で、『オリガ』、文庫本で500ページほどあるのですが、みんな一気に読めたようです。

謎解きも面白いけど、歴史とからめたリアルな描写がとても面白かったという感想や、

日本人作家の目と体験を通して書かれた作品であることで、かえって理解や親しみを深められたように思うという感想、

ヨーロッパが舞台だけど宗教がからんでこないのは日本人でソビエト学校に通っていた米原さんだからこそではないかという感想(なるほど!)、

歴史を知るということは、政治家や戦争の名前を覚えるということではなく、個人の物語を見つめることが重要なのだということをあらためて感じたという感想、

何度も読むべき本だと思った、人間の一生ってすごい、人が生きるために必要なことってなんだろう、、、

などなど、それぞれいろいろと考えてくれたようです。

まだ緊張感がみなぎっていて、わーわーしゃべって盛り上がるというのではないのですが、全員が同じ作品をじっくり(しかし一気に)読んでくるというのがなにより貴重な経験だと思っています。

全員が同じ読み方、感じ方をする必要はないと思っています。誰かが取り上げた箇所に、そうそう、そこ面白いよねと思ったり、そんなとこあったっけと思ったり。

そういう時間をゆるゆる共有することで、じんわりとなにかが効いてくると思っています。


次の共通テキストは、『オリガ』における重要テーマからのつながりで、ソルジェニーツィン『イワン・デニーソヴィチの一日』です。

でもその前にインターバルで、次回は持ち寄り企画。旅行の報告や本や映画の紹介など、全員になにがしか発表してもらいます! とっても楽しみです!






[PR]
by chekosan | 2018-10-18 21:05 | ロシア・東欧に関する授業@同志社 | Trackback | Comments(0)
嬉しい嬉しい連休です!

一日目は、佐川美術館(滋賀県守山市)で開催中の
「神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展」に行ってきました。


b0066960_09173685.jpg

ルドルフ2世は、プラハに都を移して、芸術や科学の発展に力を入れた皇帝。

世界中から、動植物や鉱物や、その他さまざまなものを蒐集し、
今でいう博物館のような空間をつくりました。

↓↓ 今回のグッズ売り場でゲットしたクリアファイルから ↓↓

b0066960_10000172.jpg

b0066960_10013652.jpg


ルドルフ2世は、お抱えの画家や錬金術師に腕を振るわせました。
それによって、自然科学、化学、薬学が飛躍的に発展しました。

プラハのお城のなかにある黄金小路というこじんまりしたお家が並ぶ人気スポットは、
そんな錬金術師たちが住んでいたところだったとか。

お気に入りの画家のひとりが、今回の呼び物でもあったアルチンボルドです。
野菜や花などで構成された人物画でおなじみ。

彼は、ルドルフ2世の肖像画(?)も描いています。
下の写真は今回の展覧会のチラシ。

手前のフリフリを着ている男性がルドルフ2世。
真ん中の野菜人間は、ルドルフ2世を古代ローマの神ウェルトゥムヌスになぞらえた絵です。

ウェルトゥムヌスは、果物と果樹、季節の移ろいをつかさどる神様だそうで、
主題としては失礼ではないでしょうし、ルドルフ2世もこの絵を気に入ったとのことですが、
喜ぶんだコレ…とかちょっと思っちゃいますね(笑)


b0066960_10102142.jpg

アルチンボルドは、同時代や後の時代の芸術家にも大きな影響を与えました。
今回も、アルチンボルド風の絵画が何点か展示されていました。
が、やはり本家からすると、、、かなり違いますね。

現代作家による立体化作品も展示されていました。
ここは撮影&拡散大歓迎コーナーだったので、私も息子に何枚か撮ってもらいました。

ここには、春夏秋冬揃いぶみ写真をアップしておきます♪


b0066960_10441930.jpg


入り口にあったのも、アルチンボルド風の造形作品です。
実は今回一番気に入りました。

ジブリのアニメに出てきそうですよね。


b0066960_10203406.jpg

b0066960_10221408.jpg


展覧会のお楽しみ、ミュージアムグッズ。

Tシャツの柄は、ドードー鳥。珍奇な動物として当時の絵画に描かれています。
いまは絶滅したと言われていますが、当時は元気に愛嬌ある姿を見れたのですね。

花の絵は、ヤン・ブリューゲル(父)「陶製の花瓶に生けられた小さな花束」(1607年頃)。
花瓶に生けた花を描くというのは、実はこの頃に編み出された表現方法なのだとか。

この花束も、かなり多様な花が描き込まれています。
単に、きれいなお花、というのではなく、植物コレクション的な意味を持っているのですね。

なのですが、サイズ的にはかなり小さな絵だったのも、へえ~、でした。

b0066960_10173265.jpg

手前の手回しオルゴールは、小6の息子が選んだ、ブリューゲルのバベルの塔柄です。
ウィーンの美術史美術館に所蔵されている作品です。今回は展示されていません。

バベルの塔を主題にした絵は、2点ほどありました。
いずれも似たような構造、構図になるのが面白いですね。

聖書にそこまで詳しく、塔の構造が書いてあったかは覚えていませんが、
もしその頃に超高層ビルを建てるとしたら、
当然こうなっただろうという共通理解で描かれているということでしょうか。

小6息子が、「バベルの塔って、ほんまにあったん?」と訊いてきたので、
「そやで~、あってんけどな、潰されてもてん」と答えました(笑)
もちろん、直後にちゃんと解説しましたよ!

佐川美術館、アクセスは大変不便なのですが、建物自体も一見の価値ありです。
まわりには何もないですが、館内におしゃれなカフェもあります。

湖周道路は琵琶湖と山を望め、休憩場所もあり、ドライブに最適です。
琵琶湖博物館と組み合わせれば、わざわざ感も薄れるかと思います(笑)
ゴールデンウイークのお出かけにいかがでしょう。

「ルドルフ2世の驚異の世界展」は、5月27日まで開催しています。

b0066960_10540978.jpg

b0066960_10532801.jpg


b0066960_10461363.jpg



[PR]
by chekosan | 2018-04-29 11:04 | 美術 | Trackback | Comments(0)

関西ウーマン信子先生のおすすめの一冊コーナー、4月分が公開されました。

今月は、1942年にチェコのプラハで実際に起こったナチス幹部暗殺事件を素材にした小説です。
この書評コーナーで初めて小説を取り上げました。

歴史小説なのですが、「ハイドリヒ暗殺事件を小説に描こうとする作者ビネを小説で描いた」ような小説です。チェコスロヴァキア愛に満ち満ちています。

研究者は、このテーマは面白い、この人物は魅力的だ、この国が好きだ、
もっと知りたい、他の人にも知って欲しいと思いながら調査を進めているので、
その過程はとてもエキサイティングで、本当は披露したくなるところなんですよね。
だから本書をとても羨ましく思いながら読みました。


b0066960_11142730.png

[PR]
by chekosan | 2018-04-15 11:18 | 書いたもの | Trackback | Comments(0)
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所見学を主目的とするポーランド行きからのつながりの本一色の3月でした。

「サウンド・オブ・ミュージック」は舞台はオーストリアですが、ナチスドイツとの併合時代の話なので繋がっています。こちらは関西ウーマン「信子先生のおすすめの一冊」で紹介しました。


3月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2216
ナイス数:260

『サウンド・オブ・ミュージック』で学ぶ欧米文化『サウンド・オブ・ミュージック』で学ぶ欧米文化感想
映画「サウンド・オブ・ミュージック」の歌と音楽、せりふ、視覚・聴覚的演出を6人の専門家がやさしく読み解いた本。映画を観るだけでも十分楽しめるが、背景にある文化や歴史を知ることによって、もっと作品を味わうことができるということを教えてくれる。月イチ連載の書評で詳しく紹介。https://www.kansai-woman.net/Review.php?id=201287 書評を書くにあたって、久々に映画も鑑賞。監督の音声解説も。以来、親子でずっと歌いっぱなし。ザルツブルクに行きたくてうずうず♪
読了日:03月03日 著者:野口 祐子,山口 美知代,浅井 学,青地 伯水,出口 菜摘,横道 誠


展示の政治学展示の政治学感想
「展示」という行為のなかにある政治的行為について、複数の専門家がそれぞれの観点や事例から考察する論集。硬派な本だが一気に読んだ。いずれの論稿も勉強になった。見る、みせる、秘匿するという行為のなかにある権力関係、それを一方的でなくすにはどうするか、展示の形態や捉え方の変遷、展示をどう読み解くか、どう教育に生かすかなどなど。19c末以降の美術展示は、国や貴族、富裕層による富や権力の誇示から、知識とセンスの誇示に変わり、誰にでも開かれているようで実は大衆や下層階級を排除しているのではないかという考察が面白い。
読了日:03月09日 著者:宮下 規久朗


他者の苦痛へのまなざし他者の苦痛へのまなざし感想
戦争や刑罰の写真を撮ること、見ること、その力の効果や限界に関する考察。前史としての絵画や版画における残酷なシーンの表現についても。例示がたくさん出てくるが、本書の中には図版は一切ないので、その度にインターネットで画像を確認するなどしていたら、なかなか進まず。そして、文章から想像したのと実際の写真がかなり違っていて、やはり写真のもつ力は大きいと再認識したり。ソンタグの考察をしっかり咀嚼、検討するよりも、例示や細かい事実に、ほぉおー、へえぇ〜、と唸って、寄り道して、終わってしまった感じ…
読了日:03月11日 著者:スーザン ソンタグ


HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)感想
クンデラのように、というかクンデラ以上に、作者が作品中に顔を出し口を出す小説。むしろほぼドキュメンタリー。プラハを治めるSS幹部の暗殺事件について、作者が知ったきっかけから、調べを進めていく過程が盛り込まれている。そこがとても面白い。我々の業界では研究対象への愛をあからさまに文字で示すことは通常できない。小説ならでは。羨ましく思いながら読んだ。映画との比較など詳しくはブログに記録。https://chekosan.exblog.jp/28205007/ 今年の夏はハイドリヒ暗殺関連現場めぐりをしよう。
読了日:03月21日 著者:ローラン・ビネ


ワルシャワの日本人形―戦争を記憶し,伝える (岩波ジュニア新書 636)ワルシャワの日本人形―戦争を記憶し,伝える (岩波ジュニア新書 636)感想
著者はポーランド語の翻訳者。ドイツ占領下のワルシャワで抵抗運動に携わった人々や、彼らを記念する博物館などについて、わかりやすく語るように紹介する本。パヴィヤク監獄に収容された地下運動家の女性が少しずつ少しずつ仕入れた材料で作った日本人形にまつわる話や、そのエピソードを日本のアーティストがパフォーマンスにした話、日本の援助でシベリアから救出され、のちに「孤児部隊」を率いてワルシャワ蜂起に参加した青年の話など、興味深い事実が続く。コルチャック先生やコルベ神父の記述も。本書で紹介されたところをぜひ巡りたい。
読了日:03月22日 著者:田村 和子


生きのびる―クラクフとユダヤ人 (母と子でみる)生きのびる―クラクフとユダヤ人 (母と子でみる)感想
クラクフのゲットーや強制収容所を生き延びた人たちの体験を聞き取ったり、体験記から要旨をまとめたりしたもの。『シンドラーのリスト』に出てくる女性や、クラクフで証言活動を行っている男性、イスラエルに渡り回想記や小説を著した女性たちの体験はたいへん過酷でショッキングである。写真も大判なので臨場感がある。この本のために撮られた写真でも、先月(2018年2月)見てきたクラクフとかなり雰囲気が違うことに驚く。この間にクラクフはずいぶん変わったようだ。もっと見ておきたかったと臍を噛んだ。

読了日:03月24日 著者:田村 和子,山本 耕二

『ワルシャワの日本人形』と『生きのびる』についてはブログにも詳細


戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在 (講談社現代新書)戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在 (講談社現代新書)感想
このところ、歴史がどう記憶されるか、伝えられるか、それは何がどう影響するかといったことを扱った諸分野の文献を読んでいるのだが、やはり私は政治学の視点が合うと思いながら本書を読み進めた。参考になる事実、分析、表現がたくさんあって、付箋がニョキニョキ。なのに、なぜか全体をまとめられない本。。。
読了日:03月26日 著者:藤原 帰一




ワルシャワの春―わたしが出会ったポーランドの女たち (母と子でみる)ワルシャワの春―わたしが出会ったポーランドの女たち (母と子でみる)感想
ここ数日で同じ著者の本を続けて3冊読んだ。本書では、著者自身が出会ったポーランドの女性たちを紹介。戦争、社会主義体制、戒厳令、民主化と、激しく変化する社会で、それぞれの人生を切り拓いてきた人たち。最後に、ポーランドにおける女性の地位や扱われ方、その変化についてもまとめてある。詳細はブログに。https://chekosan.exblog.jp/28214759/  2003年発行の本なので、その後、さらにポーランド社会と女性の状況は変わっているはず。同じようなコンセプトの本を書いてもらいたいなあ。

読了日:03月27日 著者:田村 和子


鳥のいない空―シンドラーに救われた少女鳥のいない空―シンドラーに救われた少女感想
ホロコーストを生きのびた女性の回想記。人間はどこまで残虐になれるのか。夜を徹して読んでいたら、収容所の夢を見た。こういう状況で果たして自分たちは気を強く持って耐え抜けるだろうか…生ぬるく育った我が子らなど一日も持たないかもしれない…などと思うと悲しくなって下息子の細い体を抱きしめてヨシヨシしたのであった… 著者ステラさんのその後については田村和子氏の著作『生きのびる』『ワルシャワの春』で紹介されている。詳しくはブログに。https://chekosan.exblog.jp/28215997/

読了日:03月28日 著者:ステラ ミュラー‐マデイ

読書メーター

[PR]
by chekosan | 2018-04-01 23:53 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)
面白かったです。じっくりと読みました。

ナチスドイツに占領されたプラハで決行されたSS幹部ハイドリヒ暗殺作戦をめぐる小説です。

小説といっても、半分以上は作者ローラン・ビネの資料調査の経緯や、この話を書くにあたって参照した作品への批判や、この史実を記述するにあたってどういうスタンスで臨むべきか、などなどの記述に費やされています。そこが最大の特徴です。

ミラン・クンデラに影響を受けている感じかな。作品のなかにもクンデラに関する記述がちょこちょこ出てきています。



b0066960_16014207.jpg



作者ビネは、チェコスロヴァキア愛、暗殺実行犯に同化したいという想いを臆面もなく提示します。それはもう「愛が伝わる」というレベルではなく、「僕が世界で一番愛するチェコスロヴァキア」というように言葉で明確に表すのです。

そのような、作者が顔を出す部分が鬱陶しい、小説部分だけでいい、と思う読者も多いようです。読書メーターやアマゾンのレビューでは賛否がパッキリと分かれています。

まあ、それも理解できなくはないです。特に、この時代のチェコのことを知らない人にはさっぱり話がわからないのではないかなと思います。

さらに、この作者は、実在の人物や事実を勝手な想像で脚色したり創作したりしないことに徹しているので、登場人物たちの「キャラが立って」はいません。だから評価が分かれるんですね。


でも、こういう書き方ができるのは小説ならでは。

調査の過程や、対象への愛を率直に文章中に盛り込むということは、我々の業界では通常はやりません。対象を愛しているから書くんだ、とは書けません。そのかわりに、こんな意義があるんだとか、こんな新しい視点があるんだとか、誰それのなんとか説を援用したら説明できる、とかいった意味づけ、箔付けをします。

だけど、面白そう、好きだ、もっと知りたい、他の人にも知って欲しい、と調査を進めていく過程こそがエキサイティングで、披露したくなるところなんですよね、本当は。だから、かなり羨ましく思いながら読みました。


◇◇◇

ハイドリヒ暗殺作戦をドラマティック、ロマンティックに追いたければ、映画「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦」の方がわかりやすいと思います。

この映画、劇場公開しているのを見たときは、B級感がにじむサブタイトルや、実行犯と協力者の女性たちとのロマンス部分など、いかにもなところにちょっと萎えたのですが、今回『HHhH』を読みながら、映像には映像の強みがあるなと再評価しました。

街や服装や襲撃の仕方、最後の銃撃戦の攻防などは、映像の方がわかりやすいですね。

ただ、『HHhH』は、暗殺されたハイドリヒや周辺の人物、ナチスドイツが占領した国々で行った残虐な行為、ハイドリヒ暗殺の報復として全滅させられたリディツェ村やレジャーキ村のことなどをていねいに調べて紹介していて、単純なヒーローものになっていないところが良かったです。


◇◇◇

このところ、ドイツ、リトアニア、ポーランドなどの負の歴史の現場めぐりを続けてしてきました。次の夏はチェコにしようかなと思っていたので、『HHhH』の舞台めぐりも組み合わせようかなと思います。






[PR]
by chekosan | 2018-03-22 16:15 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)
文学作品を一冊まるごと読む特殊講義、年始めはミラン・クンデラ『生は彼方に』でした。クンデラは昨年度も4作品どしどし読みました。今年度は初めてです。

今年度は、こんなエログロシーン満載の作品を授業の課題図書にして大丈夫かしらというラインナップでもまったく平気なメンバーだったのですが、この作品は「1ページで、うわぁダメかもと思った」という感想が。特に女性陣から。😅

まあそれもわかります。若くして詩人として頭角を現しながらも、女性との関係をうまく築けないで、そのことばっか思い悩んでウジウジうじうじする、「自尊心は高いが自信がない」少年の生々しくて、痛々しい「恥辱にまみれた」話なのです。←「 」内は受講生たちの表現。

「わりと恵まれた環境にいられて、生活にも困っていないのに、、、、なんでこんなことばっか考えてんだろう」というつぶやきも。いやまったくその通り。もうそれに尽きるんです。人間として成熟する前の青年期までの話なので、より一層イタさだけが残る、、、

私は主人公のお母さんの立場に近いので、そちらのストーリーが面白かったです。妻として女性として母として悩み揺れる、そのリアルさに、クンデラすごいな、よくぞ女性の脳内をここまで、、、と感心しながら読みました。

とまあ、ざっくりまとめれば、坊やに執着する母親と、その母に愛憎を抱く成熟しきれない息子の話なのですが、クンデラの場合は、単に登場人物が動いてストーリーが流れていくだけのではなく、彼らの心中や思考を掘り下げて解説し、哲学的考察を加えるので、そういう系の小説が好きな人には面白いかと思います。

チェコスロヴァキアの歴史に関心のある人には、戦争から戦後、共産党体制へ移り変わる激動の時代の話なので、それと重ね合わせて読める分、さらに面白いかと思います。



b0066960_18495819.jpeg



[PR]
by chekosan | 2018-01-11 19:03 | ロシア・東欧に関する授業@同志社 | Trackback | Comments(0)
2018年映画鑑賞第1弾、「プラハのモーツァルト」を観てきました。

三男をなくして失意のどん底だったモーツァルトは、彼を熱狂的に受け入れてくれるプラハで「フィガロの結婚」の上演と、新作オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の作曲に取り組みます。

そこで、若く才能あるソプラノ歌手に出会い、2人は惹かれ合うのですが、彼女は土地の名士である男爵に目をつけられていました。

さらに過去に対立した人物が復讐の罠を仕掛けてきて…危うし、モーツァルト! というお話。




b0066960_14411249.jpg


「フィガロの結婚」や「ドン・ジョヴァンニ」のアリアがたっぷり流れて、音楽劇としても楽しめました。「ドン・ジョヴァンニ」を生で観たくなりますよ🌟

映画の題材としてのモーツァルトといえばミロシュ・フォアマン監督の「アマデウス」の強烈なキャラが思い出されますが、こちらはかなり二枚目で紳士的。

繊細で心優しい、良き夫、良き父親、常識人として描かれています。
でもまあ寂しさと歌手の魅力に負けて浮気しちゃうんですけどね😅

ところで、邦題が示すように、この映画はプラハが舞台。画面にもプラハの街がたっぷり出てきます。

プラハは二度の大戦でも大きな破壊を免れてきたので、モーツァルトが活躍した時代くらいなら難なく再現できるんですね。

プラハのモーツァルトゆかりの劇場といえばこちら。
スタヴォフスケー劇場。

街の通りと通りの間にちょこんとある小さな劇場です。
昔、内部を見たくてバレエを観ましたが、
現代的な演目でよくわかりませんでした😅

この写真は2016年8月の朝に撮ったもの。
この時も「ドン・ジョヴァンニ」の幕が掛かってますね。


b0066960_14413924.jpg

モーツァルトはウィーンでひっそりと亡くなりますが、プラハでは盛大な追悼ミサが行われたとか。
それがこの聖ミクラーシュ教会。ここは大きくて荘厳で、一見の価値ありです。

b0066960_15494260.jpeg




[PR]
by chekosan | 2018-01-06 16:07 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)
チェコスロヴァキアで実際に起った史実を基にした映画「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦」を観に行きました。

ハイドリヒはナチのナンバー3と言われた人物です。ドイツが占領したチェコスロヴァキアの抵抗組織を壊滅状態に追い込み、ユダヤ人絶滅政策を推し進めた人物でもあります。イギリスと在ロンドン亡命チェコスロヴァキア政府は、チェコスロヴァキア軍の兵士7人を、ハイドリヒ暗殺に送り込みます。その7人のうち2人を主人公に据えた話です。

前半は作戦の計画段階や作戦を実行すべきか否か惑う人々の葛藤を淡々と描いていて、演技や演出や音楽も控えめです。全体をセピアっぽい色調にすることで当時のプラハっぽさをうまく表現しています。

舞台がプラハで、主要登場人物はチェコの俳優が多いのに、言語が英語なのは残念。ここはやはりチェコ語でやってほしかった。興行的に仕方ないのでしょうけど。ドイツ人はドイツ語でした。

外国の俳優さんって年齢や美醜がよくわからないことがあるのですが、本作でもそうでした。そのため登場人物がそれぞれどういう位置づけなのか、しばらくわからなかったです。(^^;

以下ネタバレあり。


b0066960_10034245.jpg


実行部隊は、イギリスからパラシュートでひそかにやってきた軍人たちで若者中心。軍人ゆえに亡命政府の命令は絶対です。

チェコスロヴァキアにとどまって抵抗活動をしているレジスタンスは、ナチによって壊滅状態に追いやられてきたため、この作戦には慎重です。ナチの幹部を暗殺などすれば報復としてどれだけの市民が殺されるかわからない、チェコが地図から消えてしまうかもしれないと言います。パラシュート部隊の若者たちにも恐怖心や迷いが生じます。

しかし、結局パラシュート部隊7人は計画を実行します。このとき、たまたま居合わせた市民が何人も銃撃戦の犠牲になります。

彼らの潜伏を助けた協力者の親子も残酷な仕打ちを受けます。ここのシーンはとにかく酷い。作品中もっとも観るのがつらい場面が続きます。

さらにレジスタンスが恐れていたように、5千人ともいわれる市民がナチの報復で殺されます。

実行部隊を匿ったという疑いをもたれたリディツェ村は、男性全員が処刑され、女性や子どもは収容所送りになり、そのうちほとんどの人は生きて帰ってくることができませんでした。見せしめのため、村の建物はすべて破壊され、更地にされてしまいます。

このような報復の残虐さと悲劇については、チェコのレジスタンスの口から暗殺の実行部隊に伝えられます。映画の最後には観客に向けて字幕でも再度示されます。暗殺の代償はやはりたいへんなものとなったのです。

が、この映画は、実行部隊のなかの2人に焦点を当てたドラマとなっています。そのため、暗殺者らの思いや迷い、恐怖心と愛国心とのせめぎあい、協力者のチェコ女性との恋と別れ、暗殺の緊迫感、暗殺実行後に匿われた教会でのドイツ軍との銃撃戦をかっこよく、ロマンチックに描き過ぎている感がありました。特に最期の最期の幻想シーンはちょっと…と思いました。

邦題からイメージするほどヒーロー万歳な戦争物ではないですが、もう少し深みが欲しいかなという感じです。

というか、この邦題… たしかに内容とは一致していますが、B級戦争映画感満載過ぎませんか。
これではお客さん呼べないと思うのですが…





[PR]
by chekosan | 2017-09-30 17:50 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)
「シンドラーのリスト」をDVD特典映像「生存者たちの声」とともに観ました。

スティーブン・スピルバーグ監督のアカデミー賞受賞作、ホロコースト映画の代表のような作品です。公開当時から話題になっていたのに、20年以上経ってようやく観る気になりました。

シンドラーはもっと「白い」善人として描かれているのかと思っていましたが、決してそうではないのですね。遊び上手のプレイボーイ、酒と女と贈賄で大儲けするやり手経営者。

ところが、廉価な熟練労働者を確保するという理由でユダヤ人を雇用し始めたはずが、そのうち彼はその理屈が通らないような人まで雇うようになります。お金を積んで、危ない橋を渡って、ユダヤ人労働者たちを家族ごと雇用するのです。

いよいよその手も使えなくなるかという事態に陥ると、蓄財を投げ打って自分の故郷に軍需工場を稼働させる名目で、1000人以上のユダヤ人たちを「身請け」します。そして、建前だけの「収容所」に彼らを住まわせ、SSの立ち入りや干渉を拒み、終戦まで彼らを守り通したのです。

はじめにつくったクラクフのホーロー工場では鍋や釜をつくって儲けを出すのですが、最後のチェコの軍需工場では砲弾を造っているふりをしただけで、実際にはまったく売れるものは造っていなかったといいます。

まさに「映画のような話」なのですが、特典映像を見ると、生存者の証言と映画のなかのエピソードがぴったり合っているのです。



b0066960_15054602.jpg

◇◇◇

ところで、ホロコーストに関する回想や証言には、「なぜ逃げなかったのか、抵抗しなかったのかと聞かれるが、まさか20世紀にもなって意味なく人が人をこれほどまで殺戮したりはしないだろうと思っていた」という証言がよく出てきます。

ところが現実は、前例や想像をはるかに超えて残虐さを増していきます。とにかく何もかもを取り上げられ、むやみやたらと暴力を振るわれ、簡単に殺されます。

誰かが脱走したり抵抗したりすれば、本人だけでなく、周囲の人たちまで暴力を振るわれたり、見せしめや抑止のために問答無用で殺されされますし、そうしたことがなくても、口をきいたからといっては殺され、気に入らないからといっては殺され、あるいは特に何の理由もなく殺されていくのです。

着の身着のまま、まともに食べることもできず、圧倒的な力の差、暴力の手段の差があるなかで、虐げられている側は抵抗や反抗や逃亡などできなかったのです。そうした事実があったことを、こうした作品や生存者の証言で残していくことは大切です。そうでなければ気がつけばまた、、ということになりかねません。

ということで、スピルバーグはホロコーストや大量虐殺の生存者の証言を集め、教育に活用する活動を展開しています。すでに全世界から5万2千の証言を記録し、データベース化して閲覧できるようにしているそうです。

◇◇◇

さて、シンドラーが多くのユダヤ人を雇った工場は、ポーランドのクラクフとチェコのブルニェネツにあります。クラクフのホーロー工場の方はクラクフ歴史博物館になっていて、多くの人が見学に訪れているようです。こちらは近いうちにアウシュヴィッツと併せていきたいと思っています。




一方、チェコのシンドラー工場の方は廃墟になっています。

チェコの工場は19世紀に建てられた古い建物で、チェコで唯一現存する収容所です。戦後は国有化されて工場として使われてきました。民主化後に民営化され、車のシートカバーなどの織物工場として稼働しますが、2009年に倒産したあとは放置され、2014年に売りに出されました。

地元の作家が歴史的な文化財として保存公開するよう働きかけてきましたが、それが実り、現在の所有者と地元自治体が博物館として保存することに同意して、今後再建される予定のようです。

この工場はシンドラーの出身地にあるのですが、ここはドイツ系住民が多数を占めていたズデーテン地方です。ヒトラーのドイツはズデーテン地方、そしてチェコを占領します。戦後、チェコはドイツ系住民を国外追放します。89年の民主化後、このことは、ドイツ系住民への財産返還の問題もからまえてチェコとドイツの間の大きな問題となります。

さらには、シンドラーの若い頃の素行が良くなかったこと、ナチス党員になったことなども重なって、彼への評価や彼の工場の保存・活用については地元住民の積極的な支持を得られていなかったようです。

この工場が歴史を問い直し、後世に悲劇と教訓を伝えていく場となるでしょうか。

整備されたらぜひ訪れたいと思います。











[PR]
by chekosan | 2017-09-25 16:13 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)
「関西ウーマン」に掲載していただいている書評「信子先生のおすすめの一冊 」、今月は故・米原万里さんの『旅行者の朝食』です。食べものにまつわるエッセー集です。

米原さんの本のタイトルはひとひねりあるものが多いですが、本書もそう。表題の意味は米原さんの本でぜひ確かめてください。


b0066960_11560683.png




ところで、今月から書評にもタイトルが付くようになりました。「コイとハルヴァと少女と私」。米原さん風に、こちらもいろいろ掛けてあります。(=´∀`)

ちなみに、私が見つけたハルヴァをこっそりアップしておきます。食べた感想は、、、書評本文で!


b0066960_11481490.jpg



b0066960_11485201.jpg

[PR]
by chekosan | 2017-08-19 11:47 | 書いたもの | Trackback | Comments(0)