パッと見、テーマがわかりづらいのですが、ポーランドに関係のある映画「エヴァの告白」を鑑賞しました。
原題は、The Immigrant =正味、「移民」ですね。入ってくる方の。
ポーランドの戦乱で両親を目の前でなくした姉妹が、平凡で穏やかな生活を送るためにアメリカにやってきたというのに、さらに過酷な仕打ちが待ち受けていた。それでも主人公は、妹への愛情と信仰を捨てずに、幸せになるという夢をあきらめない、
という、お話です。
カテゴリー的には、恋愛ものになるのでしょうか。彼女を救うユダヤ系(と思われる)男性(彼自身も移民)と、その従兄弟であるマジシャンとの愛憎をからめています。
派手さや、カタルシスのようなものはあまりないですが、昨年から取り組んでいる共同研究と関連のあるテーマだったので、細部を興味深く見ました(後述)。
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あらすじはこんな感じ。
ポーランドからやってきた若く美しい女性エヴァは、ニューヨークに到着しますが、エリス島で入国を却下されます。移民船での素行が悪かったという報告があること、引受人である叔母と叔父の迎えがなく、住所もでたらめであるというのです。
さらに、妹は結核を患っており、病棟に隔離されることになります。
移民を支援しているという男性、ブルーノに助けられて、なんとかエヴァは入国できることになります。
実は、この男性、自身も移民で、エンターテインメント業に携わっているのですが、職や行先のない女性たちの衣食住の面倒を見る代わりに、場末の酒場で踊らせて、売春あっせんをしています。
ブルーノは、エヴァを商売道具として引き取ったのですが、強く惹かれてもいます。なのに、やはり売春を勧めます。彼女が彼の元から去れないようにするためです。
エヴァは、身元を引き受けてくれるはずだった叔母夫婦の家を探します。
しかし、血の繋がらない叔父は、実は入国管理局に迎えに行っていたのですが、エヴァの素行が悪く送還の対象となっていると聞いていたことから、引き揚げていたのです。叔父もまた、移住先での立場を危うくすまいと必死なのでした。
当局に通報されたエヴァは、またしてもブルーノに、送還対象者の施設から出してもらいます。
愛憎なかばする二人の間に、さらにブルーノのいとこの男性が登場し、三角関係のような展開に。
そのゴタゴタが決定打となって、エヴァとブルーノは、にっちもさっちもいかない状況に追い詰められます。
さあ、エヴァは妹と再会できるのか、ブルーノとの関係は!?
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以下、注目した細部をメモ。あまりちゃんとまとめていません。後にいくほど、軽いネタバレもあります。ご注意を…
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エヴァはイギリスの外交官の看護師をしていたらしい。手に職もあり、英語も話せるので、本当なら、入国は問題なさそうな部類。ところが、入国を拒否されてしまう(それはなぜかは、後の方でわかるのだが)。
そうすると、身元を引き受けてくれた人の言うまま、望まなくても売春に従事するほかなくなる。移民、外国人、そのなかでも女性、という立場の不安定さ、脆弱さを端的に象徴している。
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ひとつ前の記事で紹介した、現代のイギリスにおける低賃金労働の現場潜入ルポとも繋がっている問題。
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ポーランドはカトリックの信仰が強い地で、アメリカでも信者は熱心にミサに通っているもよう。エヴァもカトリック信者で、教会で懺悔をする。それが邦題に使われている。
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戦争ものによくある、めちゃくちゃな邦題ほどは外してないけど、映画全体の内容からいくと、「エヴァの告白」というタイトルにするのは、うーん。ちょっとテーマが変わってしまうように思う。(「告白」という点では、ブルーノのラストの告白の方がインパクト大だし)
原題の「移民」の方が、当然ながら、内容とマッチしている。
エヴァにしろ、ブルーノにしろ、ブルーノが抱える女性ダンサーたちにしろ、従兄弟のマジシャンにしろ、エヴァを通報した叔父にしろ、アメリカで落ち着いた生活をしたい、より良い生活をしたいと思ってやってきたものの、なかなかそうはいかず、いつすべてが取り上げられるかわからない不安を抱えて、よそ者感覚を払拭できずに生きている。
そういう構図が、「エヴァの告白」にしてしまうと、薄まってしまう気がする。
そうはいっても、「移民」では、日本では誰も見ないだろうし、仕方ないんでしょうね。
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彼女を救う(ように見せかけて売春させる)ブルーノは、おそらくユダヤ系。イディッシュ語もしゃべれるんだよ、というようなセリフがあるのと、エヴァの後を追って教会に行ったときも、ブルーノは、十字を切るようなしぐさもしていない。
当時、ユダヤ系の移民は、エンターテインメントに携わることが多かった。また、買売春斡旋業に携わることも多かったといわれている。
世紀転換期には、ポーランドから大量の移民がアメリカ大陸に渡っている。そのなかには、より良い生活を求めて移住したつもりが、買売春斡旋業者に騙されていた女性も多かったといわれる。
この映画は、そういう言説を、典型的に、やや単純に描いている気がする。
そのあたりは、先述した共同研究と関連する事柄なので、もう少し、細かく見ていきたいところ。
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ブルーノは、自分の店を持っているわけではなく、女性経営者が営む居酒屋で興行している。そのため、立場が弱い。
女性経営者は、ダンス(といっても半裸の女性を見せるようなもの)を見せるようなショーは弱い、いかがわしい出し物は警察に睨まれる、映画に負ける、とブルーノに警告。
隆興しつつある映画産業に負ける、というのは、その一言だけだが、面白い。アメリカに渡ったユダヤ系の人びとは、エンタメ業に進出し、映画産業、化粧業界を発展させることになるのだが、そういう栄枯盛衰を感じさせる。
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次の項目は、ちょっとネタバレ気味です。
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この映画で描かれるニューヨークは、暗くて、陰鬱な感じ。決してキラキラしていない。ブルーノの従兄弟は、西部へ行こうとエヴァを誘う。
ブルーノも、エヴァと、結核病棟に隔離されている妹を西部へ逃がそうとする。西部は、NYと対照的な明るさを感じる土地として位置づけられている。
そしてブルーノは、大金を使ってエヴァと妹の脱出ルートを確保するのだが、各種証明書類はどうしたのだろう。
いくら州の違いが大きいと言っても、入国許可証的なものとか、身分証明書的なものは、どこの州で暮らすにしても必要なのではないかと思うのだが。
お金で偽造証明書を入手したのだろうが、そういうセリフや映像が出てこないのがちょっと物足りない(見逃しているかもしれないが)。
軽いネタバレ終わり。
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主役のマリオン・コティヤールは、ポーランド語で話す場面では早口になって、しっかりものという感じになるのに、英語だとたどたどしいために、頼りなさげに見えます。移民の心もとなさがよく現れていると思いました。
ただ、あまりポーランド人のポーランド語には聞こえないかな。
でも、マリオン・コティヤールは、可愛らしくて魅力的ですね。この映画の時点の容姿は、フィギュアスケートのメドベージェワ選手と重なって見えました。
この映画の翌年には、「サンドラの週末」で主演していますね。こちらも以前に劇場で観たのですが、同じ人物と思えなかったです。
エヴァのような、ただ居てるだけで男性たちが目を奪われて虜になってしまうようなキャラクターとは全然違って、サンドラの方は、ごくごく普通な、化粧っ気のない、解雇されそうになっている女性。
ばっちり演じ分けられているのですね。