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by chekosan

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イラン出身でパリを拠点に活動している亡命映画監督の作品です。

ある国でクーデタが起こり、懸賞が掛けられた大統領と、
その後継者となるはずだった孫が逃げる2日間を描くお話です。

独裁者であった大統領と孫は変装して国内を逃げ惑うのですが、
その道中で悲惨な光景に次々遭遇します。

ついさっきまで自分と体制に従順だったのにあっさり寝返る側近、
傍若無人に民を脅し、強奪、強姦する兵士たち、
家族を失った原因を作った独裁者に恨みを持ち、
見つけたら殺してやると息巻く人々。

風が吹き荒れる荒涼とした砂地の国土、
きらびやかな首都とは大違いの貧しい地方には、
一体何を生産して国を維持してきたのか想像できないほど、
とにかく何もないのです。

自分の体制が生んだ歪みを、これでもかというほど
小さな孫の目の前で突きつけられていきます。

祖父と孫の命を懸けた逃避行に感情移入していく観客としては、
逃げ切ってほしい、助かってほしいと思ってしまいます。

特に孫はとにかくかわいらしい。
天使のように美しく、何もわかっていない純な存在です。

しかし、孫はともかく、祖父は民にとって憎き人物。
二人はどうなってしまうのか。どうなるべきなのか。
観る側に判断をゆだねられるラストです。

撮影はジョージア(グルジア)なので、
東欧の社会主義国になぞらえて観ることもできますし、
監督の出身の中東の独裁主義の国になぞらえることもできます。

が、あくまで作品の舞台は架空の国、
ほとんどの登場人物に固有名詞が与えられていないので、
どこか固有の国の出来事としてではなく、
独裁体制が生む悲喜劇として観ることができます。
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以下は、細かい部分。ちょびっとネタバレありです


この映画で、名前がはっきりと繰り返し出てくるのは、
ある少女とある女性だけです。2人は同じ名前です。

どの国にもよくある女性の名前ではあるのですが、
この2人がそれぞれ独裁者と小さな孫にとって
どういう存在だったかということを考えあわせると、
彼女たちがなぜその名前なのか、
どうして彼女たちだけが名前で呼ばれるのかには
おそらく意味(意図)があるのではないかと思います。

もう一つ、こちらは読みとり違い、記憶違いかもしれませんが、、

主人公の大統領も、その女性に、ある名前で呼ばれます。
それが、逃げる孫に偽名として大統領が使う名前と同じなのです。

ということは、その名前はおそらく大統領の本名ではなく仇名か何かで、
純粋だった青年時代を象徴するものとして使われているのではないかと思われます。



いや、それにしても孫が可愛いかった!
段ボールかぶるシーンが一番お気に入りです。
by chekosan | 2015-12-30 23:30 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)
ベルリンの壁崩壊の数年前の旧東ドイツが舞台です。

主人公は国家保安省(シュタージ)の役人で、スパイ養成大学の教官でもあります。
見た目からしていかにも冷酷非道、任務第一といった感じです。

当代の人気劇作家がどうやら怪しいと狙いを定めた主人公は、
作家の恋人である主演女優に魅了され、
作家の自宅の監視、盗聴を自ら買って出ます。

そして、彼らの監視にはさまざまな思惑が絡んでいることを知り、
作家とその仲間たちの反体制的な言動を把握しながらも、
上司に報告することをためらうようになります。

作家、女優、主人公たちの運命やいかに…!
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シュタージは国内外の「国家の敵」の諜報に当たっていた、いわゆる秘密警察です。
どんな国家にも諜報機関はあるものですが、
旧東独やチェコスロヴァキアはその監視が非常に厳しかったと言われます。

東独にとって反体制とみなされる、あるいはその兆候のありそうな人々は
四六時中監視され、自宅が盗聴されるのは当たり前、
周囲の人々も「協力者」として「リクルート」され、
動向を密告させられていました。

映画のなかで、尋問時に椅子に薄い敷物を敷いておき、
臭いを浸み込ませてガラス瓶に保存するという場面があります。
何かの捜査のときに警察犬に臭いをかがせるためです。
これも実際に行われていました。
この映画に描かれている監視や密告の様子は誇張でもなんでもないのです。

そのような体制が多くの悲劇も生むのですが、
それでも純粋な思い、愛や友情があり得たということは
映画のタイトル「善き人のためのソナタ」が示しているとおりです。

決してハッピーな話ではありませんが、希望や勇気も持たせてくれる一本です。


シュタージは壁開放の知らせが入るや最重要書類を破棄したとも言われますが、
そのときにシュレッダーにかけられたものも含め大量の資料類は
第三者機関(通称ガウク機関*)が管理し、関係者に資料を公開しています。

*反体制活動家であったヨアヒム・ガウク氏(現ドイツ大統領)が率いたため。


以下は印象的だった場面。ちょっとだけネタバレありです。

監視される劇作家のアパートメントは広いお部屋なんです。
4LDKくらい?で一部屋一部屋も広い。
インテリアもおしゃれで、いかにも優遇されている芸術家の住まいです。

かつては名声を集めていたのに、
政府ににらまれてほされてしまった老演出家の住まいは、
狭くて、隣人?の夫婦喧嘩が丸聞こえなのですが、
たくさんの本に囲まれた雰囲気のある空間。
私はこちらの方に憧れてしまいました。

どちらとも対照的なのが、体制のエリートだった主人公の住居。
薄っぺらい造りの簡素な集合住宅です。
社会主義国で大量に建てられたパターンの建物です。

そして、最後の場面で、主人公が入っていく書店。
このお店、目抜き通りに面する石造りの立派な建物で、
店名がなんとも皮肉なのです。

このお店、実在の書店だったのですが、残念ながら2008年に閉店、
しかし、2015年3月には文学サロンとして復活したようです。行きたい!

ネットで検索すればすぐわかってしまうのですが、
この映画をご覧になっていない方はググる前にぜひ映画で確認を!
by chekosan | 2015-12-30 22:17 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)
著者は2015年にノーベル文学賞受賞したベラルーシのジャーナリスト。
アフガニスタン戦争やソビエト体制を生きた
普通の人々の証言を編んだ作品群が評価されました。

本書も1986年のチェルノブイリ原発事故の深刻な被害を受けたベラルーシの人々に
事故発生10年後にインタビューした証言集です。

初期消火に当たった消防士の妻、
3日だけと言われて着の身着のまま疎開させられた村人、
生まれ育った土地を離れずに残った老人たち、
内戦を逃れてチェルノブイリに移ってきて被災した人々、
調査に当たった科学者、事故の処理に従事した技術者や軍人など、
さまざまな人々が語る経験や目撃談からは、
公的な記録にはないとされているであろう実態があぶりだされます。

防護服や線量計の支給もなく長期間にわたった事故処理、
高価な加工肉であれば大量に食べないからと汚染肉を混ぜられたソーセージ、
疎開させられた村の家屋からは一切合切が略奪される、
被曝して死亡した人の埋葬地には入ることもできない、
放射性廃棄物埋設施設という名のタダの穴に放り込まれる汚染された家屋や重機、
それらも盗まれてどこかへと転売されていく…

しかしテレビでゴルバチョフは、
「すべて良好、すべて制御できている」と演説していたのです。

チェルノブイリ以後はすべてが変わったと人々は言います。

以下、印象的な証言をいくつか抜粋。

私たちはこれから、
チェルノブイリを哲学として理解しなくてはなりません。
有刺鉄線で分断されたふたつの国、ひとつは汚染地そのもの、
もうひとつはそれ以外のすべての地域。

これもやはり一種の無知なんです、
自分の身に危険を感じないということは。
私たちはいつも<われわれ>といい<私>とはいわなかった。
でも、これは<私>よ! <私>は死にたくない、<私>はこわい。
チェルノブイリのあと、
私たちは<私>を語ることを学びはじめたのです、自然に。

2016年4月、チェルノブイリ原発事故から30年を迎えます。

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by chekosan | 2015-12-28 23:30 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)
クリスマスイブにロシア映画を観てきました。

クリスマスとは何の関係もない、華やかでもなく清らかでもない、
官僚制や腐敗や不正に人生を左右されていく一家の話です。

主人公は寒村で自動車修理を営む、ちょっと怒りっぽい男性。
その妻は後妻で、若くて美人だけど、疲れがにじんでさみしげな雰囲気。
先妻の息子は13,4歳くらい? 義母に反抗してばかりです。

祖父からの土地を市に収用されそうになっている主人公は、
モスクワから敏腕弁護士を連れてきて裁判を起こし、市と争います。

訴えは予想通り却下。
弁護士は市長の弱みを握って巻き返しをはかるのですが…
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主人公たちと、市長、裁判官、警察とのからみのシーンなどを見ていると
社会主義時代の話のように思えて仕方ないのですが、
登場人物が使うのがスマートフォンだったり、
市長の執務室に掛けられているのがプーチンの写真だったりするのを見て、
ああこれは現代の話なんだとハッとさせられます。

実は、この映画の着想のもとになったのは、
アメリカで実際にあった、土地収用が引き起こしたある悲劇的な事件だそうです。

大きな権力に翻弄される個人の苦しみ、悲劇という構図は、
ロシアでもアメリカでも日本でも、社会主義でも資本主義社会でも起こる話。

原題は「リヴァイアサン」。
旧約聖書に登場する海の怪物であり、
トマス・ホッブズが個人が抵抗できない国家を象徴するものとして使った言葉です。

それを象徴しているかのように、
舞台となる寒村の海岸には鯨のものらしき巨大な白骨が放置されています。

そして、鯨の骨を模したかのように、
何艘かの朽ちた船もひっくり返ったまま海に放置されています。

そんな寒々しい光景に最後に現れるあるものとは…

静かに、しかし受けた衝撃がじわじわとしみこんで後を引く映画です。
by chekosan | 2015-12-28 00:21 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)
関西大学法学部の外国書研究の授業を
図書館に新しくできたラーニングコモンズで実施しました。
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※上の写真は関大HPからお借りしました


休講2回分の補講なので、ワーキングエリアを3時間予約しました。

ワーキングエリアはガラスで仕切られた空間です。
今回は一番大きい16人収容のエリアを借りました。


第一部は、授業で学んだことに関連のありそうな雑誌記事を探してきて、
要点をかいつまんで紹介してもらいました。

こうした演習は初年次演習や文章表現科目で何度かしてきましたが、
今回、3-4年生の専門科目でも有効とわかりました!

1時間ほどだったのに、いや時間が限られていたからこそか、
非常に内容の濃い発表となりました。
おすすめです!
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第二部は、本を使った言葉あそび「直観読みブックマーカー」に初挑戦です。

遊び方は次のとおり。
①いろんな本をもってきて、みんなで集まりませう。
②「問い」を決めて本に「答えを教えて下さい」と真剣に祈りませう。
③目を閉じながら本を開いて、指差した一文を書きませう。
④「直観(偶然)の一文」を皆に提示して意見交換しませう。
⑤なぞなぞ?禅問答?不思議なブックマーカーの完成です。

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授業として行いますので、一冊は分類番号300番台(社会科学)のもの、
あとは好きな本をいろいろ、4~5冊ずつ適当にもってきてもらいました。

そして、

自己紹介
○○さんへのアドバイス
○○さんの2016年は…
○○さんの取り扱い説明書 ←みんなで頭をひねって、ある学生が思いつきました。

というお題で、
適当なページを開いて目を閉じて指さした一文をしおりに書いて、
お互いに贈呈しあいました。

えええ~~!?  というような一文が登場したり、
おおお~~!!  という一文が登場したり。

面白かったです!

私の自己紹介と学生たちにもらったしおりは写真のとおり。

狙ってないのに、すごい…! 
いろいろ当たってる…!? ^^;
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第二部は7人+私の計8人でした。
いろいろな組み合わせができて、ちょうどいい人数だったと思います。

学生たちの感想は次のとおりでした。

「自分が持ってきた本をもう一度読み返したくなったり、
 他の人が持ってきてくれた本の中でも読みたくなる本がたくさんありました」

「好きな本を探して借りることがなかったので、探すことだけで楽しかった。
 お題にけっこう合っている文章を書きだせたのでとても楽しかった」

「新しい試みの授業で楽しかったです。交流をはかれる授業は少人数授業ならではで、
 有意義な時間を過ごすことができました」

「5限の遊びはアドバイス等、おもしろい表現がたくさんあった」

「しおりのゲーム、すごく楽しかったです。
 たくさん人が集まったのでわいわいできました」

「一文のゲームがたのしかったです!!」

「今日のゲームがすごく楽しかったです!! 
 普段読まないような本を知ることもできて、すごく楽しく学ぶことができました。
 またおもしろいお題かんがえてきます(^▽^)/♡♡」


集まったメンバーによってお題を変えると良さそうですね。
上記のお題でもかなり笑えました。

図書館活用&読書推進&友達づくりにピッタリでした!

またやりたいと思います。
by chekosan | 2015-12-12 23:28 | 大学教育 | Trackback | Comments(0)
12月の関西ウーマン「信子先生のおすすめの一冊」が公開されました。

今回は、飯間 浩明 さんの
辞書に載る言葉はどこから探してくるのか? ワードハンティングの現場から』。

写真たっぷりユーモアたっぷりの楽しい本です。
それに合わせて、書評もクイズ形式で楽しく読めるようにしてみました。(^。^)


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by chekosan | 2015-12-12 22:03 | 書いたもの | Trackback | Comments(0)

学校図書館で思ったこと

小学校の図書室ボランティアに行っています。

図書室には司書さんと、自治体からの派遣でサポーターさんが来られています。
が、常駐ではないので、その方たちがいらっしゃらない時間は、
保護者のボランティアが貸出返却などのお手伝いをすることになりました。


司書さんが月替わりで作られている特集コーナーが楽しみです。
季節に合わせた特集がメインですが、切り口に意外性、話題性があったり、
小学校のさほど多くない蔵書にもこんなのがあるのかという本を見つけておられたり。
プロの仕事だなあと拝見しています。
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潤沢でない予算のなかで、何にお金を振り分けるかは難しい問題です。

本はたくさん購入してほしいし、ボロボロになったものは買い替えてあげたいですが、
本や空間を活用してくださる専門家の人に充てることはもっと大事かもしれないと、
このコーナーを見ながらしみじみ思うのでした。

学校図書館にはなじまないですが、
東北で活動されているNPOの図書館は、各館で本を定期的に回しているそうです。
限りある資源(本や空間)をうまく活用されているなあと思います。
しかし、そういう運営をうまく回すにもやはり人が必要なわけですよね。


そんなわけで、私たちも、あるものは最大限生かすべく、
私たちにできる範囲で、せっせと修理をしています。
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by chekosan | 2015-12-08 13:47 | 図書館、図書室、本のあるところ | Trackback | Comments(0)
流通科学大学の1年生前期科目「文章表現Ⅱ」では、
「おすすめの一冊」の書評を作成し、図書館主催の書評コンテストに応募しました。
 → 結果は文末に!

さらにはPOPを作成して学園祭で展示しましたところ、
地元の名物書店・井戸書店様がご覧くださり、
一作品をオリジナルの帯に採用していただくという嬉しいスピンオフが発生しました!
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山下菜月さん作成、森絵都『カラフル』です。

こちらの作品に目を留められたのは、デザインが若者らしく、かつ、
作品の内容を的確に表現しているから
、とのことです。

作者の山下菜月さんも、
「本当に好きな本なので嬉しい」と、とても喜んで、
さっそく井戸書店様にお友達と駆けつけてくれました。
これからもたくさん本を読んで、人に伝えていってもらえればと思います。

井戸書店様では、お店のおすすめの本に感想カードを差し込んでおられます。
購入者が感想を書いてお店に持っていって、次の読者にバトンを渡す試みです。
こちらの本のトップバッターはやはり山下さんの書評から。
書店スタッフさんが代筆してくださいました。

みなさま、ぜひ井戸書店様に足をお運びいただき、
『カラフル』ご購入いただきまして、読者の輪をつなげてください。
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なお、わたくしも『月光の夏』の感想を書かせていただきました。
ぜひご購入を! ^^

そして、POPはこのあと大学図書館にコーナーをつくって展示していただく予定です。
こちらもぜひご覧ください。力作ぞろいです。開設時にはお知らせします。


さて、書評コンテストの方も結果が出ました!

応募総数は過去最多の125作品、
入賞10名(最優秀賞1名、優秀賞2名、佳作7名)のうち、
最優秀賞、優秀賞1名、佳作4名が「文章表現Ⅱ」受講生という結果となりました。
1年生、よくがんばりました☆

12月中旬に大学全体の表彰式で表彰されるそうです。
またその様子と講評をレポートしたいと思います。
by chekosan | 2015-12-01 11:37 | 大学教育 | Trackback | Comments(0)
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2015年11月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2982ページ
ナイス数:337ナイス

国境のない生き方: 私をつくった本と旅 (小学館新書)国境のない生き方: 私をつくった本と旅 (小学館新書)感想
北海道の自然に親しんで育ち、17歳でイタリアに留学して、世界中を渡り歩いてこられたヤマザキさんですが、単に地理的に移動すれば彼女のように創造性に富むのかといえばそうではないんですよね。サブタイトル「私をつくった本と旅」が示すように、苦しいときにむさぼるように読んだ本や芸術家たちとの対話がヤマザキさんを作ったのですよね。好きなことへの情熱とそれに精進すること、教養を身につけることと批判的精神をもつこと、それを言葉にして出すこと、そこが大事なのだというところを読み落としたくない本です。
読了日:11月2日 著者:ヤマザキマリ


動物農場 (角川文庫)動物農場 (角川文庫)感想
家畜たちが農場主たち人間を追い出して、自分たちで農場を運営していくが、リーダとなった豚たちの支配はどんどんエスカレートしていく。豚たちに覚えこまされたスローガンを羊たちがメエメエ言い立ててまともな議論を中断させるとか、決まりごとがいつのまにか改変されていても豚ほど賢くない動物たちはよく理解できず、ますます過酷な状況に追いやられてしまうところなどはユーモラスに描かれている。スターリン期のソ連を批判した小説ではあるが、別の時代の別の地域にもあてはまるところがこの小説が傑作であるゆえん。おすすめ。
読了日:11月3日 著者:ジョージ・オーウェル,GeorgeOrwell


一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)感想
舞台は近未来のイギリスだが、同じオーウェルの『動物農場』同様、スターリンのソ連を彷彿とさせる設定。「党」による徹底的な監視、思想統制が敷かれた社会では、過去は常に党の方針に沿って改変され、人々は考えることも抗うこともしない。疑問を持った人物はある日どこかへ連れ去られ、思想の矯正を施された上に消されてしまう。そしてもともといなかったことにされる。実にぞっとする話なのだが、実際にこういうことをしている国はあった(ある)という現実の方がよほど怖い。後半は読むのがキツイが「附録」まで読むと少しは救われる。
読了日:11月6日 著者:ジョージ・オーウェル


オーウェル『動物農場』の政治学オーウェル『動物農場』の政治学感想
『動物農場』は予備知識なく読んでも面白いのですが、オーウェルが作品に込めた批判や隠喩がわかるともっと面白くなります。この本はそれを手助けしてくれます。さらに、こんな事件、こんな歴史も想起できるとか、政治学ではこうした事象をこのように一般化しているというように、古代から現代に至るまでのさまざまな政治的、歴史的現象を引き出してわかりやすく解説しています。「政治学」とは付いていますが気負うことなく読むことができます。一つのテキスト(原典)を読み解き、そこから連想できる事象を発展的に考察するお手本になる本です。
読了日:11月10日 著者:西川伸一


月光の夏 (講談社文庫)月光の夏 (講談社文庫)感想
神戸は板宿の井戸書店さんおすすめ。実話をもとにした小説。出陣を控えた特攻隊員が最後にピアノを弾きたいと小学校に訪ねて来る。そのとき対応した教師が45年後、処分されそうになったピアノの保存を願って逸話を子どもたちに語ったことが大きな反響を呼ぶ。メディアがピアノを弾いた特攻隊員を探そうと動き出すなかで様々なことが明らかになってくる。文庫版あとがきまで読むと、戦争が人々に与えた傷の深さ、戦争が生んだ闇の深さがわかる。なぜこの作品がフィクションになったのかも理解できるだろう。
読了日:11月13日 著者:毛利恒之


最相葉月 仕事の手帳最相葉月 仕事の手帳感想
『絶対音感』の著者が仕事について語った本。フィクション作品の書き方を綴った第3部が面白かった。科学や人物評伝を書く際、著者はどのように下調べをし、取材に臨み、削ぎ落として一つの作品にしてきたか。その姿勢や入念な調査に感嘆した。最相氏の著作は『絶対音感』しか読んでなかったが、星新一の評伝も読んでみたい。というか、星新一の作品を再読したくなった。第4部の書評集では『サンダカン八番娼館』に惹きつけられた。読みたいと思わせる書評だなあ。
読了日:11月14日 著者:最相葉月


逃げてゆく愛 (新潮クレスト・ブックス)逃げてゆく愛 (新潮クレスト・ブックス)感想
共通テーマは過去とどう向き合うか。特にアウシュビッツ、ナチス、ユダヤ人との関係、秘密警察といったドイツが抱える問題と現代の男女関係・家族関係とを絡めて描いた小説集。同じ作者の『朗読者』ほど重くないが、それだけに私たちに置き換えて読みやすいかもしれない。それにしても、なんだこの勝手な男!こんな夫/恋人イヤ!って主人公がちらほら出てくる。が、なんとなく情けないところがあって憎めない。そこは作者のうまいところかな。
読了日:11月19日 著者:ベルンハルトシュリンク


あたしンち 21あたしンち 21感想
最終巻。またゆるゆる描いてほしいなあ。みかん大学生編、ユズ高校生編なんかも読みたい。お母さんと水島さんたちお友達の会話、まだまだ楽しみた〜い。
読了日:11月21日 著者:けらえいこ


息子の俺への態度が基本的にヒドイので漫画にしてみました。 (torch comics)息子の俺への態度が基本的にヒドイので漫画にしてみました。 (torch comics)感想
本屋さんでお試しミニ冊子を読んで即買い。男児あるあるネタ。わかるわ〜。ウチの息子たちは、ここの坊ちゃんほど母を愛してくれてないけど(笑)、父親には理不尽なこと要求するもんなあ。私にはしないのに。あと寝転んで電車のオモチャで遊ぶ姿! やってたやってた! 男児のお父さんお母さん、共感できますよ〜。(^。^)
読了日:11月21日 著者:横山了一


「居場所」のない男、「時間」がない女「居場所」のない男、「時間」がない女感想
「就業第一主義」を強いられて職場以外につながりや拠りどころをもてなくなっている男性と、仕事に家事に育児にといくつもの責任を背負って圧倒的に時間が足りず疲弊する女性の姿をさまざまなデータから明らかにしている。夫は仕事にいそしみ、妻は家事育児を担ってというような高度成長期に「標準」とされた人生像と現在の状況は大きく異なっている。それなのに、いまだにそうした生き方を強いることを前提にした政策や社会設計を立てているようでは男女ともに無理を生じさせるばかりで立ち行かない。多様性への寛容が求められる。
読了日:11月24日 著者:水無田気流


華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)感想
オーウェルの『1984年』を授業で紹介したら、複数の学生が本書と『図書館戦争』を連想したと感想に書いた。いずれも表現の自由や思想の自由を極端に制限、抑圧する愚民化政策をテーマにしたフィクションだが、現実も近い状態になっているのが怖い。思考を巡らせる書物や芸術が廃されて、代わりに常に耳に受信機を突っ込んで何かを聞いたり、めまぐるしく変わる刺激が強いだけの音楽や映像を大音量で流しっぱなしにしたり、意味のないおしゃべりに興じたり、ひたすら繰り返される広告にさらされたり、暴力とスピードと性的享楽に耽ったり。やだ。
読了日:11月28日 著者:レイブラッドベリ



読書メーター

by chekosan | 2015-12-01 00:15 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)