読書メーター 2020年2月の記録
2020年 03月 02日
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ザ・ディスプレイスト: 難民作家18人の自分と家族の物語の感想
かつて難民であった作家18人によるエッセイ集。世界には戦乱や迫害などで故郷を追われた人々が約7千万人いる(2019年6月末現在)。自らの体験から紡ぎだされる作家たちの声を聞く(読む)ことで、わたしたちは、難民となった人々のことを、顔のないかたまり、危険なよそ者、あるいは、情けをかける対象、受け入れ国に貢献すべき人々としてしかとらえていないことに気づかされる。月一回連載関西ウーマンの書評で取り上げました。
「女子」という言葉の乱発は好きではないが、なるほど、ここで取り上げられている文章や詩には「女子」が合うかも。時代は大正から昭和の後期までと幅広いし、プロの文筆家のエッセイ、外国留学した女子学生が母親にあてた手紙、プレイボーイに宛てたラブレター、主婦の投稿作文などさまざまなのだが、概して「女(の子)である私」を感じさせるのである。いやいや一冊に編まれて「女子」と冠されたから、そのように感じてしまうのかも。戦中戦後にパリやアメリカに留学した若い女性の手紙の主たちは、いじらしくもありたくましくもある。
以前、地方自治が専門の友人から教えてもらった本。市民の政治参加のかたち。日本では青年会議所が普及に努めていて各地に広がっているらしい。住民基本台帳から無作為抽出された市民が、有償で、1~2日かけて、地域の公共課題について話し合う。本書の出版時点では、意見やアイディアを出してもらうタイプが多いが、先進地域では、係争的な課題に対する判断を出してもらうタイプでも有効に機能したそう。特定の市民ばかり集まりがちな公募型よりも幅広い声が集まり、市民の政治参加意識の向上に効果あり。討論は5人1グループが最適とのこと。
良作だった映画「僕たちは希望という名の列車に乗った」の原作。1956年に反ソ的な行為に及んだ東ドイツの高校生たちがクラスごと退学処分になってしまい、西側に亡命した実話を、当事者のひとりがまとめたものだが、なにしろ文章が読みにくい。でも、あの生徒たちや、残った家族たちがどうなったのかを知りたくて読み通した。当時の東独の教師の経歴や、シュタージ(東独の秘密警察)の曲解ぶりなどの細部が面白い。ブログに内容と関連記事をまとめました。https://chekosan.exblog.jp/29915340/
本屋さんの旅行本コーナーの京都本のところでみつけた一冊。私自身は商いをするような能力も体力も意思も構想もないのだが、なぜかこういう本が好き。自分の関心や好きなことや使命感や曲げられない何かを大切にする生き方に惹かれるからだろうな。本書に出てくる人々は、とりわけ「好き」を大事にして仕事にしている。ものづくりや、人をつないだり育てたりする空間づくりへの熱意と行動力が圧倒的。軌道に乗るまで、あるいは乗ってからも、複数の仕事に携わる人も多いのも面白い。なお登場する人々は著者の知人が主で、開業数年の若手中心。
可愛くてロマンティックなばかりではない、チェコの歴史の「黒い」部分=ダークサイドを取り上げた一冊。研究書のように厳密に出典を明示したものではないが(参考文献一覧はある)、現地に長く住んでいるからこその実感や取材の成果が盛り込まれていて面白い。歴史的事件や出来事そのものの説明だけでなく、その後の体制転換のなかで、それらがどう伝えられ、評価されてきたかについて触れているところが参考になった。特に、敏腕経営者バチャによるズリーンのまちづくりの章が大変面白かった。全体にもう少し写真や図版等があればさらに良いかと。
エーコは昔『薔薇の名前』を読んだきりだが、やはり面白い! 19世紀後半、ある文書偽造家が、雇い主や標的を変えながら、陰謀、偽造文書、スパイ行為に携わり、悪名高い反ユダヤ偽書「シオン賢者の議定書」を生み出すというミステリー仕立ての話。デマ、憎悪、差別はこうして創られると皮肉たっぷりに痛烈に描き出す。最近の剽窃ベストセラーや、ヘイト本、トンデモ本の乱造、公文書破棄・隠蔽を連想する。長いが翻訳がいいのでスラスラ読める。詳しくはブログに。https://chekosan.exblog.jp/29931432/
気分をチェコモードにする週間。シュタイナー教育についてというよりもチェコ在住者の生活体験に触れたくて手に取った。著者一家は考えるところがあって家族でチェコに渡る。子どもたちは公立のシュタイナー学校に兄妹で入学し、主に言葉の面で苦労しながらも、個性を育む教育方針になじんでのびのびと成長する。シュタイナー学校では教師の教育力が問われるなあと感心。/チェコではよく校外学習をするという記述を見つけた。昨秋プラハで行く先々で校外学習をしている生徒たちを見かけ、普段からそうなのか知りたかったところだったので嬉しい。
著者よりご恵贈にあずかり即読了。17世紀の教育者コメニウス(チェコではコメンスキーと呼ばれ「民族の教師」として尊敬されている)に縁のある土地を訪ね、現在どのように伝承・顕彰されているかまとめた写真たっぷりの一冊。オールカラー。コンパクトな本だが、長年の研究の蓄積が醸し出す信頼感がある。貧富、身分、性、居住地、民族等の差異にかかわらず、すべての人に学ぶ機会を設けることを提案したコメニウスは、障碍児のための教材も開発。コメニウスの生涯と業績を知るだけでなく、フィールドワークでの観察視点の持ち方も参考になった。
Eテレの放送と併せて。ハヴェルの文章は抽象的で難しいので、解説つきで背景や意味を理解するのは有効だと感じた。放送では、伊集院光氏が我々の身に置き換えて具体的な事例を挙げているのが効いていた。番組プロデューサー氏や解説の阿部氏はチェコの民主化運動とハヴェルの活躍をリアルタイムで見て感銘を受けた世代。その思い入れが番組に反映されていて見ごたえがあった。ただ、私自身ハヴェルを尊敬しているが、今秋の民主化30年を祝うプラハの諸行事でもハヴェルは別格の扱いで、偶像化しすぎではないかという印象は持った。
読了日:02月28日 著者:阿部 賢一
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