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by chekosan
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白石草『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち ウクライナの取り組みに学ぶ』(岩波ブックレット 2014年)

今年の4月26日でチェルノブイリ原発事故から33年が経ちました。

ここ数年、ダークツーリズムに関心を持つようになって、チェルノブイリも一般人が観光で行けるようになっていると知ってからは、近い将来、訪ねることも視野に入れるようになりました。

この本は28年目のウクライナの取り組みを取材してまとめたものです。薄いブックレットですが、参考になる情報がたくさん載っています。

これを読みながら、先日大阪で開催されたトークイベントでのお話を思い出していました。

何が原因なのかわからない体調不良、真っ暗なトンネルを手探りで歩いているような少女時代。19歳で病名がわかって「嬉しかった」と言うマリアさん。手術を受けて生まれ変わったと繰り返されていました。


1986年に起きたチェルノブイリ事故によって母胎内で被爆したマリア。今年で33歳を迎える彼女は19歳の時に慢性甲状腺炎(橋本病)と診断されるまで精神疾患と誤診され続け、24歳の時に甲状腺を全摘出する手術を行いました。指の震え、髪が抜け落ちる、爪が剥がれる。首の腫れ、眼球の突出。幼い頃から様々な症状を抱える中で、幼いマリアは親の期待に応えられなかったことが何よりも辛かったと語ります。さらに、手術後は自身の障害が見えないものであるが故に、他者からそれを理解してもらえないことに苦しみ続けました。首の手術跡は消え、表面的には何も障害を抱えないマリア。そんな彼女は、1日、10〜20錠の薬を飲み、体と心の調子を整えなければいけません。現在は、夫のサーシャとともに支え合い、また画家としての道を歩み始めました。




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以下、メモ。

・事故後、汚染地域の学校では、子どもたちの健康状態が非常に悪化。授業時間は5分短縮。45分から40分に。

・1年生はさらに短くて35分。

・取材先の学校では、体育は、健康状態に応じて4グループに分けている。普通の体育ができる子どもは4分の1に満たない。

・2012年から保健省が心臓負荷や状態を調べるテストを導入。体育の時間に突然死する子どもが増えたため。

・ウクライナでは、住民は地域の指定された病院に通うため、病院には住民のカルテが集約され、経年的な状況を把握することが可能。

・それによると、障害のある子の割合は年を追うごとに増えている。心臓、神経系、目の先天性疾患などが増加。

・1991年制定「チェルノブイリ法」による「汚染地域」の区分(基準は放射線被爆線量)は4つに分かれる。ウクライナでは、土壌や食料の汚染から推計される内部被爆と外部被爆を合算。もっとも低いエリアで年間0.5ミリシーベルト。

・汚染地域では、詳しい健診を実施、240万人のデータベース化。2世、3世も対象。支援のベースになるものとして住民からは信頼。

・汚染地域に指定された地域では、補償金の給付、健康診断や医薬品の無償化、保養の参加や給食費の無償化など

・ウクライナ国立放射線医学研究センターでの取材:検査した子どもたちの中で健康な子が減っている。罹患率が高くなっている。土壌汚染と心疾患の相関関係を研究。放射線の影響があるとされる疾患は、甲状腺がん以外、国際的に一致していないが、新たな慢性疾患の増加は低線量被爆の影響ではないかと見ている。

・ウクライナの研究者はこれまでウクライナ語でしか論文を発表してこなかったが、英語で国際誌に投稿するようになってきている。

・2011年「ウクライナ報告書」:放射性物質の影響だけを個別に分けて論じるIAEAの方針は現場の医療関係者の評価とは隔たり。

・甲状腺がんの予後はよいというが、転移なども。600キロ離れた地域でも子どもが発症。

・チェルノブイリでは、甲状腺がんの検査は、超音波だけでなく、血液検査等も。さらに、甲状腺疾患だけでなく、ほかの疾病についても事故の被害と認定されている。

・手厚い保養:ソ連時代からの伝統もあって、保養地に施設がある。元気な子向け、病気の子向けなど。食事、ハーブを使った栄養摂取なども。

・保養を支える若手リーダー「ウジャーテ」:ソ連時代から。ソ連時代は教師になるためには一年間の教育実習。うち三か月は「ウジャーテ」の実習。

・日本政府の調査報告書には、ウクライナの現場の実践や研究成果が反映されていない。社会政策省でのヒアリングも盛り込まれていない。

・日本では事故初期の健康状態のデータが取れていない。網羅的な健診も行われていない。



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by chekosan | 2019-04-30 15:42 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)