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by chekosan
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ローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』(東京創元社 2013)

面白かったです。じっくりと読みました。

ナチスドイツに占領されたプラハで決行されたSS幹部ハイドリヒ暗殺作戦をめぐる小説です。

小説といっても、半分以上は作者ローラン・ビネの資料調査の経緯や、この話を書くにあたって参照した作品への批判や、この史実を記述するにあたってどういうスタンスで臨むべきか、などなどの記述に費やされています。そこが最大の特徴です。

ミラン・クンデラに影響を受けている感じかな。作品のなかにもクンデラに関する記述がちょこちょこ出てきています。



ローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』(東京創元社 2013)_b0066960_16014207.jpg



作者ビネは、チェコスロヴァキア愛、暗殺実行犯に同化したいという想いを臆面もなく提示します。それはもう「愛が伝わる」というレベルではなく、「僕が世界で一番愛するチェコスロヴァキア」というように言葉で明確に表すのです。

そのような、作者が顔を出す部分が鬱陶しい、小説部分だけでいい、と思う読者も多いようです。読書メーターやアマゾンのレビューでは賛否がパッキリと分かれています。

まあ、それも理解できなくはないです。特に、この時代のチェコのことを知らない人にはさっぱり話がわからないのではないかなと思います。

さらに、この作者は、実在の人物や事実を勝手な想像で脚色したり創作したりしないことに徹しているので、登場人物たちの「キャラが立って」はいません。だから評価が分かれるんですね。


でも、こういう書き方ができるのは小説ならでは。

調査の過程や、対象への愛を率直に文章中に盛り込むということは、我々の業界では通常はやりません。対象を愛しているから書くんだ、とは書けません。そのかわりに、こんな意義があるんだとか、こんな新しい視点があるんだとか、誰それのなんとか説を援用したら説明できる、とかいった意味づけ、箔付けをします。

だけど、面白そう、好きだ、もっと知りたい、他の人にも知って欲しい、と調査を進めていく過程こそがエキサイティングで、披露したくなるところなんですよね、本当は。だから、かなり羨ましく思いながら読みました。


◇◇◇

ハイドリヒ暗殺作戦をドラマティック、ロマンティックに追いたければ、映画「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦」の方がわかりやすいと思います。

この映画、劇場公開しているのを見たときは、B級感がにじむサブタイトルや、実行犯と協力者の女性たちとのロマンス部分など、いかにもなところにちょっと萎えたのですが、今回『HHhH』を読みながら、映像には映像の強みがあるなと再評価しました。

街や服装や襲撃の仕方、最後の銃撃戦の攻防などは、映像の方がわかりやすいですね。

ただ、『HHhH』は、暗殺されたハイドリヒや周辺の人物、ナチスドイツが占領した国々で行った残虐な行為、ハイドリヒ暗殺の報復として全滅させられたリディツェ村やレジャーキ村のことなどをていねいに調べて紹介していて、単純なヒーローものになっていないところが良かったです。


◇◇◇

このところ、ドイツ、リトアニア、ポーランドなどの負の歴史の現場めぐりを続けてしてきました。次の夏はチェコにしようかなと思っていたので、『HHhH』の舞台めぐりも組み合わせようかなと思います。






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by chekosan | 2018-03-22 16:15 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)