イェジー・コシンスキ『ペインティッド・バード』(松籟社 2011)を教えてもらった@同志社大学特殊講義「文学作品で知るロシア・東欧」
2017年 12月 27日
一回の授業で一作品を読むというスタイルを採っています。
毎週一作品を15週、読み続けるのはかなり大変なので、
先日は、各自が好きな作品を紹介する回を設けました。
トルストイ『イワン・イリイチの死』、ゴーゴリの『鼻』、
アルセーニイ・タルコフスキーの詩集『白い、白い日』(映画監督のタルコフスキーの父)
など、科目名には載せながら読めていなかったロシアものや、
キェシェロフスキ監督の「デカローグ」のノベライズ版、
そして、コシンスキ『ペインティッド・バード』
といったポーランド出身者による作品が紹介されました。
『ペインティッド・バード』は紹介してくれた学生によると、
『走れ、走って逃げろ』(映画「ふたつの名前を持つ少年」)と主人公の境遇が似ているが、
もっと酷い話で、でもとても好きな作品だというので、さっそく入手して読んでみました。
なるほど、これは酷い。
思わず息をのむ、あるいはひいいいぃと声を上げたくなるようなシーンのオンパレードです。
第二次世界大戦中、田舎に疎開した主人公は、混乱のなかで親と連絡が取れなくなります。
浅黒い肌、黒髪、黒い目のため、災いをもたらすユダヤ人か「ジプシー」のみなしごと思われ、
行く先々で虐待を受け、農村を転々とします。
彼自身が被ったり目撃したりする農民や兵士たちの残忍な行為は、
殴る蹴る撃つ焼く系の暴力も、性的な暴力も、あまりに過激すぎて嘘っぽく思えてきますが、
他の作品、例えばアレクシェーヴィッチの一連の作品や、クリストフの『悪童日記』、
あるいは戦争体験者の手記や自伝などにも、似たような場面がたくさん出てきます。
あとがきで作者自身が書いているように、この作品自体はフィクションですが、
決して創造の産物ではなく、当時こうした行為が頻繁に起こっていたのは事実のようです。
この作品は、賞賛とともに激しい批判も巻き起こし、
作者は故郷をことさらに悪く描いたと脅迫も受けたそうですが、
それでもかつての友人は、
「自分たちや家族の多くが戦争中にくぐりぬけた経験に比べれば、牧歌的な小説である」
という手紙を送ってきたとか。
厳しい自然環境、蔓延する伝染病、戦争による人心の荒廃という背景が
残虐性や性的な倒錯を強め、頻発させたのは違いないでしょう。
しかし、時代は変わった、今はもうこんな野蛮なことは起こっていない、
と言えないのが恐ろしいところです。
いやそれにしてもこわい。強烈でした。
悪夢を見るかもしれないので、繊細な人にはおすすめしません。
そうそう、一つ興味をひかれた箇所がありました。
赤軍の部隊に図書館があって、主人公がそこで読み書きを教えてもらうところです。
本を運んで勉強したり読書したりできるようにしていたのですね。
同じ頃、アメリカ軍も本国から大量の本を受け取っていたとか。
戦地でも、いや戦地だからこそ本が求められたのですね。
他の国はどうなんでしょう。気になるところです。