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by chekosan

アシスタント院生君のおすすめ『雪の練習生』 ~みんなが見つけたロシア・東欧文献紹介(6) ~

みんながみつけたロシア・東欧関係文献の発表会では、授業のアシスタント(SA)をしている院生O君にも一冊おすすめ本を紹介してもらうようお願いしておきました。昨年と同じものでいいと言っていたのですが、まったく別のものを用意してきてくれました。


写真もO君提供です。さすがドイツ語が読めるO君! さりげなく多和田さんのドイツ語の小説も自前です!


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◇◇◇


今回、私が紹介する本は、作家の多和田葉子さんの『雪の練習生』です。[新潮社、2011年(文庫版、2013年)]


著者の多和田さんは、日本語とドイツ語の二ヶ国語で作品を発表しているベルリン在住の小説家です。芥川賞を受賞した怒涛の展開を見せる『犬婿入り』や、ドイツ語による不思議な描写が魅力の Wo Europa anfängt (『ヨーロッパが始まるところ』)も楽しいお話です。最近では、集英社文庫ヘリテージシリーズの『カフカ ポケットマスターピース』の編集および翻訳をしたことでも話題となりました。



今回紹介する『雪の練習生』は、「わたし」、「トスカ」、「クヌート」のホッキョクグマの親子三代にわたる物語です。物語は、作家を志す「わたし」、東ドイツのサーカス団で活躍する「トスカ」、動物園の人気者「クヌート」のアスペクトから展開されていきます。



クマを題材にした作品といえば、クマのプーさんやテッドが有名ですね(笑)。古典ですと、ハインリッヒ・ハイネ(1797-1856)の『アッタ・トロル』(1847)が挙げられます。この作品は、『雪の練習生』のなかにも顔を出します。ただし、ホッキョクグマの「わたし」は『アッタ・トロル』で登場するヒグマを軽蔑しています。クマはクマでも、種類が違えば違うのだというところの描写が見事です。



ところで、なぜこの本が「ロシア・東欧地域研究」に関連するのでしょうか。それはこの本自体の内容が、東西冷戦末期からベルリンの壁崩壊、そしてソヴィエトの終焉を時代は背景としているからです。


「わたし」はその自伝的小説の中に「政治的内容」を嗅ぎとられ、ソヴィエトから「検閲」をうけます、さらには「モスクワ送り」を避けるために、西ドイツに亡命します。ここからは時代に翻弄される亡命作家の動向を知ることができるでしょう。もっとも、「わたし」は極寒が大好きなので、むしろ「モスクワ送り」をされたいと願うのですが(笑)。



このように、この小説のなかには、政治的雰囲気がときおり顔を覗かせます。現実であれば戦慄する恐怖となるものが、ユーモラスかつリズミカルに描かれるところが本書の面白さの一つです。



それになんと! 多和田さんは大学生時代に、ロシア語を専攻していたそうなのです。ロシアに造詣の深い著者の小説なのですね。


息抜きとしてはもちろん、彼女が造りだす雰囲気を味わうために読む価値のあるです。機会があれば、図書館や近くの書店などで手に取ってみてください。



◇◇


複数の受講生が「Oさんの紹介された本、面白そうですね、読んでみます」という感想が寄せられました。(^▽^)
私もさっそく発注しました! 楽しみです! O君ありがとう。





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by chekosan | 2017-05-28 11:41 | 大学教育 | Trackback | Comments(0)