クンデラ『不滅』をみんなで読んだ@同志社特殊講義ロシア・東欧の政治と社会
2016年 12月 23日
こちらはクンデラがチェコから亡命して少し経ってから書かれたものなので、
チェコの話はちょろっとしか出てきません。
クンデラと思しき〈私〉がプールサイドで見かけた老婦人のある仕草に感銘を受け、
そこからアニェスという作中人物を生み出します。
『存在の耐えられない軽さ』同様、作家が小説内に顔を出し、
作中人物の行動や潜在意識までも解説するという形式をとっています。
1980年代のフランスに生きる中年男女2組プラスαをめぐる話と、
世界の文豪ゲーテとベッティーナという女性との話が、交互に〈私〉によって解説されます。
終結も近くなって、いきなり誰?という人物が登場し、彼の話が延々語られ、
なんだか一体どうなってるのかと混乱しそうになりますが、それを乗り越えると全体像が見えてきます。
いや、一読ではちょっとわからないところもあるかも。。。
小説の筋を楽しみたい向きには、話が進まん〜とフラストレーションを生じさせること請け合いですが、
小説を通じて物事をじっくり考えたいという人には良い作品です。
本作も、人の生き様、歴史と個人、自我と他者、男女関係、性と愛、身体の捉え方について、
くどいほど考察が展開されます。
『存在』『冗談』と重なる点も多いのですが、『不滅』独特な視点をピックアップ。
◆イデオロギーとイマゴロジーの考察
イマゴロジーとは、イメージを最重視する風潮、イメージ偏重、
マーケットに乗るようなものばかりを追う移り気、
本質や文脈を無視して一部を切り取る軽薄さを指します。登場人物の一人も、その犠牲になります。
◆父の娘
『存在』や『冗談』では、母への息子の思慕、息子の父否定が
メインテーマの一つだったように思いますが、
『不滅』は姉妹間の愛憎と、娘と父との依存関係がクローズアップされます。
女性が話の中心に据えられています。
まあでも、またしてもいい年した男性の年上女性への執着話は登場するのですが。
◆引用の変化
本作ではゲーテ、ベートーヴェン、ランボーが大活躍。
『存在』『冗談』でもニーチェやベートーヴェンなどは出てきますが、
『不滅』ではチェコやロシアの文化や歴史に関する記述がぐっと減っています。
クンデラ自身は「チェコの反体制作家」と位置付けられるよりも、
より普遍的な作家として、国や時代を超えた哲学を小説で展開することを望んだようですが、
チェコに思い入れのある読者としては物足りない。。。
生々しい人間の苦悶や惑いや滑稽さが無くなって、
なにかこう高みの見物になっている感じがしました。
でもまあ、読み応えのある小説には違いないと思います。
と、濃い小説を続けて読んで、消化不良の感もあるので、
年明けは『小説の技法』でクンデラをおさらいしようと思います。