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by chekosan

ミラン・クンデラ『冗談』をみんなで読んだ@同志社特殊講義ロシア・東欧の政治と社会

同志社大学法学部の「特殊講義 ロシア・東欧の政治と社会」、
『存在の耐えられない軽さ』に続き、ミラン・クンデラ『冗談』を読みました。

『冗談』は、1965年の作品です。『存在~』よりも前の作品となります。
主な登場人物は、1948年のチェコスロヴァキア共産党による政権掌握前後に学生で、
戦争や社会主義化、スターリン批判という激動に運命を翻弄される世代です。

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小説の構成や手法や哲学的考察が凝りに凝っている『存在』よりは読みやすいですが、
登場人物の生き様とか、感情や思考の右往左往ぶりの点では、
若者たちには『存在』よりも受け入れ難く感じたようです。

私も若かりし頃に一度読んでいるのですが、細部はすっかり忘れていて、
物語の発端となる絵葉書に書いた「冗談」と、
最後の方の気の毒だけど「冗談」みたいなシーンだけが印象に残っていました。

今回あらためて読んでみて、「冗談」というタイトルが示しているのは、
そういったわかりやすいエピソードだけではないことがわかりました。

ちょっとした掛け違いや思い込みや出来心から起こった(起こした)ことが
事によっては、とんでもなく深刻な事態を引き起こし、
それぞれの人生に大きく作用し続けること、

でも、そうしたことも、実は自分自身が持っていた潜在的な考えが起こしたことで、
偶然や冗談や人のせいにできないのではないかということ、

そうして起こってしまった過去を修復することはできないのだということ、

でも、人生における重くて忘れられない出来事や対立や確執や苦悩も、
他人から見ればまた違った様相をしていること、

さらに、自分たちが意識し続けてきた苦悩や相違も、
違う世代から見れば、ひとかたまりなものにしか見えないこと、

といったことを、主人公たちは人生のなかで悟っていくのですが、
そうしたことに気づくきっかけが、これまた一種の「冗談」のようであるのです。

起こった/起こっている事実は一つであっても、
人によって思いや目的は違い、見えていることや感じ方も違う、
あるときそのことがわかったり、ずっとわからないままだったりするのが
人生で社会で歴史なのです。

私も、若いころに読んだときには、そういう登場人物たちの逡巡には、
あまりピンとこなかったように思います。

今回は、ところどころ自分になぞらえてしまって、密かに傷つきながら読むことになりました。
どの部分にかは秘密ですが。


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この作品の主題は、そういう心の機微や人生の悩みや迷いと、
大きな時の流れや社会の変化との絡みについてなのですが、
私が今回、それよりも印象に残ったのは、モラヴィア、シレジア地方に関する記述です。

モラヴィア地方は登場人物たちの出身地で「民俗芸能の桃源郷」です。
共産党は、国をまとめる凝集剤として民俗芸能の復活を利用します。
そこに登場人物の一人は、うそ臭さや欺瞞=キッチュなものを見ます。

そして、しばらく郷里や民俗芸能から距離を置いていた登場人物の一人は、
歴史の大きな「冗談」からは逃れられないこと、
自分の復讐劇こそ「冗談」の最たるものになってしまったことを悟ったとき、
青春の象徴の一つだった民俗芸能に慰めを与えてもらい、古い友人とも和解するのです。

また、登場人物の一人が苦汁をなめる時代を過ごす町がオストラヴァです。
ここは、炭鉱の町として栄えたのですが、彼にとっては「煤」だらけの「黒い町」です。

モラヴィア地方やオストラヴァは、この作品のなかで、
懐古主義、理想主義、後進性、キッチュ、寂れゆくものの象徴でありつつ、
人生の次に場面に進む起点にもなっています。

で、、、

モラヴィア行きたいね、ここに出てくる「王様騎行」ってやってるのかな、
オストラヴァの炭鉱はどうなってるんだろう、
クンデラ作品の舞台を訪ねるツアーしようか、なんて話で盛り上がりました。

ちょっと調べてみると、
オストラヴァの炭鉱は閉鎖されましたが、産業遺産として公開されている模様。
モラヴィア地方の「王様騎行」も催されている様子。

これは本当に行きたいかも!
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by chekosan | 2016-12-07 17:22 | ロシア・東欧に関する授業@同志社 | Trackback | Comments(0)