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by chekosan

『マウス』作者スピーゲルマンへのインタビューを読んで

父親のアウシュビッツ体験を描いた漫画『マウス』(レビューはこちら)の作者
アート・スピーゲルマンのインタビューを収録した本があると知りました。

柴田元幸編・訳『ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち』(アルク 2004)

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柴田元幸氏によると、スピーゲルマンは饒舌な人らしいです。
このインタビューでは、アメリカのコミックス史、
現在取り組んでいるプロジェクトのこと、自作『マウス』に関して熱く語っています。

『マウス』に関しての柴田氏とのやりとりは大変興味深いです。

柴田氏は大学の授業で『マウス』をときどき読むのですが、
賢い学生ほど、こうした過酷な体験を、何不自由なく育った自分たちが
素直に感動していていいのかと疑問を抱くというのです。

それに対してスピーゲルマンは、学生には読む権利がある、
自分だって父親のように直接体験したわけではないと言います。

それよりももっと深い問題があると彼は言います。

彼が『マウス』を描きはじめたころ(1970年代初頭)は、
ホロコーストに関する文献はほとんどなく、
1ヵ月もあれば読みつくせるくらいだったと言います。

それが、その後、大量の資料や作品が発表されていきます。
そのなかに『ライフ・イズ・ビューティフル』という映画もあるのですが、
『ライフ~~』が『マウス』に刺激されて作られたと知り、スピーゲルマンはショックを受けます。

というのは、『マウス』はメタファーを使って歴史的な問題にたどり着こうとする試みだったのに、
『ライフ~~』の方は、歴史をメタファーに変えてしまおうとする試みだというのです。

そこでは、アウシュビッツが単に「嫌な体験」「悪い時代」の同義語になっていて、
そのような一般化は、「歴史を心底些細なものに変えてしまっている」というのです。

スピーゲルマンは、それは『マウス』を読み違えているとはっきり言っています。

◇◇◇

このインタビューの1年後、アメリカで9・11同時多発テロが起こります。

スピーゲルマン自身もこの事件に衝撃を受け、トラウマを抱えるのですが、
イラク攻撃へと向かうブッシュ政権に「弱腰」なアメリカのジャーナリズムに怒りを覚え、
自身の絵が表紙を飾ってきた雑誌『ニューヨーカー』を去り、
ドイツの新聞『Die Zeit』に "In the Shadow of No Towers" を連載します。

これは、9・11連作トラウマ漫画というべきものだそうで、
邦訳も出ているそうなので、また読んでみたいと思います。
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by chekosan | 2016-07-11 15:22 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)