『漂流教室』と中欧現代美術の意外な関係! ~みんなが見つけたロシア・東欧文献紹介(3)
2016年 06月 05日
加須屋明子、宮崎淳史、ゾラ・ルスィノヴァー、井口壽乃
『中欧の現代美術: ポーランド・チェコ・スロヴァキア・ハンガリー』(彩流社 2014)

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どんな本ですか? なぜこの本を選びましたか?
中欧の政治・社会的な状況(冷戦とそれの終結に起因する状況)を背景に、
この地域の現代美術を解説している。
紹介された作品には、そこに込められた意味がわかるものもあれば、
分からないものもあったが、どれも興味深く、
「これはどういう意味だろう」と考えるのが楽しい。
中欧諸国の現代美術とそれらが背負うものを合わせて知ることができる概説書。
特に興味をもったところは?
イェジ・ベレシ《預言者Ⅱ》(1968) p.31.
1990年代のピンカヴァの作品pp.89-91.
ヨゼフ・ボルフの子どもたちを扱った作品pp.103-108.
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チェコの画家ヨゼフ・ボルフ(Josef Bolf, 1971- )の作品には、
彼が幼少の頃すごした無機質で陰鬱なプレハブ団地や病院や学校が多いそうです。
子供が多く登場し、ときに血を流し、頭部が動物であることもあるそうです。
本書には図版も載っているのですが、なんとなく懐かしさを感じる不気味さ。
と思ったら、ボルフは、チェコでは過小評価されてきたコミックスや
B級ホラー映画や疑似SF小説の影響を受けているというのです。
そして、執筆者によれば、日本の漫画家・楳図かずおの代表作
『漂流教室』(1972-74の作品)の影響が大きいというのです!
懐かしさを感じる不気味さはそこから来るのか、と納得。
本書には、ボルフ以外の作品も多数紹介されています。
なんとなく陰がある作品が多いように思えます。
中欧の現代美術、とても惹かれます。
ほかにも、中欧の美術を扱ったものとして、
加須屋明子『ポーランドの前衛美術』(創元社 2014)
井口壽乃、加須屋明子『中欧のモダンアート』(彩流社 2013)
といった本が出版されています。
6月11日には上智大学で、シンポジウム「中欧美術の現在」が開かれます。