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by chekosan
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河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』(平凡社 2012)

何かを知りたくて追っていく過程を書いた本が好きです。

対象への強い関心や好奇心、ワクワクするような発見や調査の行き詰まり、
人との出会いと新たな関係性の構築といったプロセスも書き込んだ本には
専門書以上に刺激や示唆を与えられることが多いです。

本書もそのような本です。

河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』(平凡社 2012)_b0066960_1293760.jpg

朝日新聞記者(現編集委員)の河原理子氏は
フランクルの『夜と霧』に深い感銘を受け、指針としてきました。

フランクルはユダヤ人精神科医で、戦時中、強制収容所で
肉体労働に従事したり、医師として働いたりした人物です。

◇◇◇

代表作『夜と霧』は名著の誉れ高い本ですが、私はずっと避けていました。
強制収容所の様子や収容者の心理を分析しているという内容が
自分には耐えられないように思えたからです。

実際、著者が経験した収容所での日々は凄惨かつ非道で過酷です。
が、そのような状況に置かれた人々の精神状態を
できるかぎり客観的に分析しようとした文章は、
穏やかで高潔で、むしろ光や希望さえ感じるものとなっています。

◇◇◇

フランクルは、「ひとりひとりの人間を個人の罪で判定するのではなく、
国民全体に対して共同の一括判定を下す」ことをくりかえし批判したそうです。

そのことでユダヤ社会や故国オーストリアでは反発も受けたそうですが、
復讐や憎しみに逃げ道を求めなかったからこそ、
多くの人が彼の思想や言葉に惹かれ、生きる支えにするのでしょう。

強制収容所のようなところでさえ、人は最後までどう振る舞い、
どう生きるかを決定する自由がある、
それを支えるのは未来への思いであるというフランクルの主張は、
時代を経ても多くの人を勇気づけています。

◇◇◇

河原氏は、彼の著作に大きな影響を受けた人々を日本各地に訪ねます。
さらには、フランクルの辿った道を確かめにポーランドやウィーンを訪ねます。

そうした「旅」を経て、河原氏自身の生きる意味についての思いが記されます。

◇◇◇


本書は新聞連載記事を核としているので、用語や時代背景の説明がわかりやすく、
全体を通して読みやすいものとなっています。

巻末には年表や参考文献リストもあり、フランクルや『夜と霧』、
ナチスドイツの収容所について知りたい、学びたい人の助けとなります。

おすすめの一冊です。
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by chekosan | 2016-05-19 13:13 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)