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by chekosan

アゴタ・クリストフ『文盲』(白水uブックス 2014)

『悪童日記』作者の自伝的短文集。

一文も、本全体も短くて、あっという間に読めてしまうが、
読み終わるのが惜しくて仕方ない珠玉の一冊。

著者はハンガリー動乱後、4ヶ月の赤ん坊を抱いて亡命する。
たまたま「分配」されたのがスイスのフランス語圏の地域だったことから、
縁も憧れもない仏語を一から学んで、
仏語で戯曲や小説を発表し、世界的作家として認められるまでに至る。

4歳から本を読んできた著者にとって、
亡命後の数年は、生活するための日常会話は出来るようになっても、
読んだり書いたりすることができない「文盲」の日々であった。
本書のタイトルはそこに由来する。

物質面では故国にいた頃よりも多少の余裕は出来たものの、
ひたすら工場で働き、家事育児に従事するばかりの日々は、
沈黙と空虚に占められた社会的砂漠、文化的砂漠であったという。

仏語で読み書きできるようになり、作家として成功を収めてからも、
仏語を母語とする作家のようには仏語を扱えないと彼女は自覚している。
それでも一人の「文盲者」として挑戦し続けるのだと宣言する。

大人になってから習得した言語だからこその簡潔で明瞭な文体は、
クリストフの書くことへの信念や執念をストレートにきっぱりと伝える。
彼女は体験の詳細や思いをくどくどと書き連ねはしないが、
それがかえって胸に迫る。

もっともっとこの人の文章を読みたいと思わせられる。
数作を残して他界されたのが残念。

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by chekosan | 2016-04-13 10:02 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)