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by chekosan

映画「サウルの息子」観てきました

先日、「サウルの息子」を観てきました。

アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所で、
同胞であるユダヤ人の死体処理に従事する特殊部隊に属した男性が
息子(と彼が言い張る少年)をユダヤ教式に弔おうと奔走する2日間を描いています。
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別の映画を鑑賞した際に予告編を観て衝撃を受け、強く惹かれつつも、
アウシュビッツの死体処理部隊…全編見通せるだろうかと迷っていたのですが、
藤原帰一氏の映画評や、朝日小学生新聞の記事(写真)に背中を押され、
映画館に足を運びました。

※朝日小学生新聞の記事は、こちらの中高生新聞サイトで読めます
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以下、少しだけネタバレありです
まだご覧になっていなくても大丈夫な程度かと思います。

◇◇◇

映画は、いきなりにじんだような、ピンボケな画面から始まります。

森の中に笛(だったか?)の合図が響き、動き出す男性たち。
だんだんと一人の男性に焦点が絞られていきます。
それが主人公のサウルです。

そのあとも画面はサウルのごくごく狭い周囲だけを映します。
半径1mから先はぼやけている感じです。
各紙の映画評で「予習」してはいたものの、この演出には非常に戸惑います。


サウルたちは、到着した列車から人々を収容所の脱衣室に移動させます。

シャワーが終わればお茶が出されると騙されて、
老若男女問わず全裸にされ、「シャワー室」に押し込められる人々。

アウシュビッツでは、労働力になるかならないかを
ナチス・ドイツの医師が判定していたと言われますが、
この映画(1944年10月のある日)では
既にそのような「選別」さえ行われず、
列車から直接、ガス室へと連れて行かれています。
そうでないと「処理」が追いつかないからです。

人びとの誘導、脱衣室の衣服や持ち物の回収、
「部品」と呼ばれる無数の死体処理、「シャワー室」の清掃を、
「ゾンダ―コマンド」と呼ばれるユダヤ人たちが、
日に何回と流れ作業のように行います。

ゾンダーコマンドもずっとその職に就いていられるわけではなく、
数か月程度で入れ替えさせられます。
つまり自らもいつ殺されるかわからない状況です。

誰をその対象にするかを決めさせられるのもコマンドの長、
つまりユダヤ人です。

そんな状況でまともな神経でいられるわけがない。
体を動かしてはいるけれど、なにか現実でないような、
ずっと悪夢の中にいるような異常な精神状態を、
周囲をぼやかせるという撮影手法が表現しているようです。


しかし、視覚的な演出に比して、音は非常にリアルです。

ぎゅう詰めの「シャワー室」の扉が閉じられたあと、
サウルや鑑賞者に伝わるのは音だけです。

次第に高まっていく悲鳴や壁を叩く音、阿鼻叫喚。
音だけであるがゆえに、余計に恐ろしいのです。

出だしの、この場面だけで音を上げそうになりました。


サウルは、清掃の作業中、「息子」の死体を見つけて、
なんとかユダヤ教の儀式で弔おうと危ない橋を渡るのですが、
これも本当に息子なのかは最後まではっきりしません。

少年を弔うという一点に、異常な環境で生きる意味を見出そうとした、
サウルの幻想、思い込みなのかもしれません。


ゾンダーコマンドたちは、同報を死に至らしめる役割を背負わされ、
自分たちもいつ殺されるかわからない状況にあるわけですが、
なんとかこの状況を記録に残そう、打破しようとします。

没収品のカメラで写真を撮ったり、メモを書いたり、
現地ポーランドの抵抗勢力から武器を仕入れて蜂起を企てたりします。

映画でもその決死の行動が盛り込まれていて、
鑑賞者はそこに一抹の希望を持つのですが…

◇◇◇

このような虐殺・圧制に対して、人道的、感情的に、
酷い、悲しい、憤るというのは当然の大前提として…

本作を観ながら感じたのは、
非常に危ない表現ではありますが、
なんという無駄なこと、非生産的なことをしたのかということです。
殺すために殺すという行為と、そのためのシステムの維持のことです。

そして、同時期に、そして今も、世界各地で形は違えど、
このような蛮行がくりかえされるのはなぜか。
なぜシステムが構築される前、されていく中で、こうも抗えないのか。

これだけの狂気のシステムを構築して運営するエネルギーを、
健全で建設的なことに注げられないものなのか。


◇◇◇

ネーメシュ・ラースロー監督はハンガリーの38歳。
デビュー作の本作品で、いきなりカンヌ国際映画祭グランプリ、
アカデミー賞の外国語映画賞など多数の賞を受けました。
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by chekosan | 2016-03-01 12:04 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)