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by chekosan

近森高明 工藤保則編『無印都市の社会学』(法律文化社 2013)

私は社会科学系の大学で、大学入門的な科目を担当している。

現職場は、まず体験して気づくということを重視したプログラムを全学導入していて、
4月早々にフィールドワークも行う。

とはいっても入学してすぐなので、
当然ながらほとんどの学生たちはフィールドワークの手法を知らないし、
人や場所やものを見る目も養われていない。

しかも担当者である私自身もフィールドワークをきちんと学んだわけではない。
昨年度は統一プログラムとして提示された共通教材と
代表教員の全体指導におんぶにだっこで頼り切ってしまったため、
学生には申し訳ないが、我がクラスに関しては、
費やした時間に見合った成果を出せたとは言えなかった。

その反省から、次年度に向けて、
フィールドワークの方法について学ぶべく手に取った次第。

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本書のサブタイトルは「どこにでもある日常空間をフィールドワークする」。

没個性的、どこにでもあると言われるような現代的な場所をフィールドとして
大学生がレポートや卒論を書くための実践的なテキストとして書かれた本である。

とりあげているのは、コンビニ、家電量販店、ショッピングモール、
パーキングエリア、マンガ喫茶、ラーメン屋、郊外型書店、フィットネスクラブなど。

恒常的な商業施設以外にも、フリーマーケット、音楽フェス、
寺社巡礼、パワースポットなども対象としている。


全編を読んでみて。

まず読み物としては面白かった。
平易な文章で短い事例がたくさん編まれていて短時間で読み通すことが可能である。

行き慣れたところでもぼーっといるだけでなく、
ちょっと意識して目を向けてみたらいろいろ気づくよ、
どんなところ、どんな場でも学問の対象になるよ、

と気づかせることには成功していると思う。

が、学生のレポートや卒論の「模範演技」(本文中の表現)という点ではどうだろう。

著者たちは、必ずしも自分の研究対象を取り上げたのではなく、
編者がピックアップしたフィールドを依頼されて担当したのだという。

そこを専門で研究しているわけではなくても、
こんな風に社会学的に観察、考察できるのだよと見せるのが狙いだろう。

そういう狙いに沿って、本書の各章は、

 ・まずフィールド先に関する個人的な体験や印象から始まり、
 ・次にとりあえずフィールドを観察して、
 ・それを検証するために文献などを確認し、
 ・社会学の理論や先行研究を援用して考察する、

という形をとっている。

…のだが、全編あまりにさらさらっと書いたエッセー風なのである。
それが読みやすさ、面白さになってはいるのだが。

社会学の知識も手法も身につけた研究者は、
普段関心をもっていないフィールドでも見る目が養われているし、
理論や手法や知識が身についている。
それらを援用すれば、この本の一章分くらいの文章はささっと書けるだろう。

果たして、学生はそこをちゃんと見抜けるだろうか。

学生がこの本を読んだからといって、すぐに観察眼は養われないだろうし、
学術的に考察するための資料や理論は引っ張ってこれないだろう。

そこはやはり基本的な学術的なものの見方や考え方が必要だし、
知識や情報を得る方法なども知っていなくてはいけない。

…などと、ごくごくまっとうな原点を確認できたのは収穫であった。

そして、具体的な実践例が豊富なので、
本書と同様、現代的な商業施設でフィールドワークをするうえで、
どういった準備や誘導が必要か、
あるいはどういったことは事前にしない方がいいのか、
といったことも考えることができた。

フィールドワークを指導するうえで、いろいろな示唆を与えてくれる本であった。

もちろん、これ一冊でフィールドワークを指導できるようになったとは思っていない。

引き続き勉強するといたします!
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by chekosan | 2016-02-16 00:00 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)