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by chekosan

映画「コルチャック先生」(アンジェイ・ワイダ監督 1990年)を観ました


コルチャック先生は、ポーランドの著名な医者、教育者、作家です(1878?-1942)。
「子どもの権利」を尊重するという当時では新しい思想、主張を展開した人です。

ポーランドで2つの孤児院を開き、運営していましたが、
ユダヤ人やポーランド人のナチスドイツのユダヤ人絶滅政策によって
子どもたちと共にトレブリンカ収容所に送られ、殺されました。

本名は、ヘンルィク・ゴールドシュミット、「コルチャック」はペンネームです。



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映画の制作は、1990年。
ポーランドが共産党体制から民主化へと移行してからの作品ですが、白黒です。
それによって、何度か挟まれる、ナチスドイツによる記録映像に違和感なくつながります。

ナチスは書類や映像での記録を丹念に撮っていて、この映画のなかでも、
兵士がワルシャワのユダヤ人特別区(ゲットー)の様子を撮影している場面が出てきます。

街に骨と皮だけになった人々がゴロゴロ転がって死んでいる様子、
そうした死体を運んでいく様子などが、映画のなかに挟まれます。

そのようにして、この映画で描かれていることは作り事ではないのだということ、
実際は映画以上に悲惨な状態だったのだと示しているのではないかと想像します。

同じくワルシャワのゲットーを舞台にした、
ポランスキ監督の「戦場のピアニスト」でもそうした場面が出てきます。

ナチスは、撮影している撮影隊の様子まで撮影しています。
目の前で飢えと病気と暴力に晒されている人々を撮影し、さらにそれを撮影するという、
「客観的」で冷淡な行為そのものが、戦争の狂気をよく表しています。

ただし、「戦場のピアニスト」の方が悲惨さではかなり上回っています。
「コルチャック先生」は、そうはいっても相対的には綺麗な映像です。

それは、コルチャック先生自身が著名な知識人で、
ポーランド人、ユダヤ人、さらにはドイツ人からも尊敬されていたため、
なんとか物資や支援金を駆けずり回って集められたこと、

コルチャック先生は医者であり教育者であったので、
たとえゲットーに押し込められようと
孤児院をできるかぎり清潔に健康に配慮して運営していたこともあるでしょうし、
子どもたちも重要な登場人物であるため、あまり悲惨な映像にしにくかったのかもしれません。

ですので、あまりにも悲惨な映像は見られないという人でも見ることができると思います。


ところで、DVDには付録として小冊子が入っていたのですが、その解説によると、
この映画は上映後、フランスの評論家に「反ユダヤ主義」であると批判されたそうです。
それはちょっと驚きでした。そのようには私には読みとれませんでした。

確かに、ユダヤ人のなかにもナチスと通じて甘い汁を吸っている人物がいて、
彼らは街角で次々人が死んでいる状況下でも遊興にふけっていて、
そんな人たちからコルチャック先生は支援を受けざるを得ない、
その行為を抵抗組織の若者からなじられるというシーンもあります。

また、危険を冒してユダヤ人を助けようとするポーランド人もいることも示されます。

これもポランスキ監督が「戦場のピアニスト」のメイキングで語っているのですが、
ある民族が全員悪人だったり善人だったりすることはないでしょう。
ワイダ監督のこの作品でも、そのことをバランスよく描いているように思えるのですが、、、


ラストシーンが幻想的なのも、コルチャック先生と子どもたちを待ち受ける運命から
目を背けるようなものだと受け取る人もいるようです。

このラストは、たしかに、うーん、そうくるのか?と思わなくもないです。
終わりの30分ほどを一緒に見ていた小4の子どもには解説をしないといけませんでした。

ただ、字幕でははっきりとトレブリンカのガス室で殺されたと出ていますし、
殺されるシーンまで映画に盛り込む必要があるとも思えません。

あえて、「移送」されるところで終わっていることで、
彼らがそのまま死へと直行したことを示しているように思います。

移送されるまでに、何度か逃げ出せるチャンスはありました。
せめてコルチャック先生だけでも、養子に出せる子だけでも、と思えなくもない。
みんな一緒にいるべきだと主張した先生は意固地だと言えなくもないかもしれません。

しかし、あらゆる権利を剥奪され、外界から遮断され、
情報も自由も食料も財産も体力も健康も一切奪われた人たちが、正確な状況を把握し、
後世から見た「善後策」を選ぶことは困難だったでしょう。


私自身は、この映画は比較的淡々と話が進んだせいか、
有名な実話なので結末を知っていたからか泣きませんでしたが、
コルチャック先生の子どもへの接し方、彼らにかける言葉、
孤児院の教育方針、運営方法などにはたいへん感銘を受けました。

悲劇で泣かせるとか、ドラマティックな展開で衝撃を与える映画ではなく、
コルチャック先生の思想の深さや広さ、意志の強さや実際にとった行動、
高潔さなどをじっくり受けとめる映画だと捉える方がよいのではないかと思います。

コルチャック先生のことをもっと知りたいと思い、買ってあった本を出してきたら、
一緒に映画後半を見ていた小4男児が、先に読み始めました。
へぇ~~すごいねんなあ、と感心しながら横で読んでいます。
子が読み終えたら、私も読もうと思います。^^

→2017/3/13追記:
子よりも先に読みました。感想はこちらに。http://chekosan.exblog.jp/26716756/








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by chekosan | 2017-03-12 20:03 | 本、書評、映画 | Trackback | Comments(0)