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by chekosan

平田オリザ『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書 2012)


すーーっと入ってくる一冊、いや先日読んだ『下り坂をそろそろと下る』と合わせると2冊。
平田オリザ氏の著作やお話は、まさに腑に落ちると言う表現がぴったりくる。
本書は、あまりに一気に読めてしまって、メモを取るヒマすらなかった。

◇◇◇

コミュニケーション能力が必要とかまびすしいが、さてそれはどういうものかというとはっきりしない。

主体的であること、自分の意見をはっきり言うことを求められながら、
同時に空気を読め和を乱すなと言われるような、「ダブルバインド(二重拘束)」、
つまり二つの矛盾したコマンド(特に否定的なコマンド)が強制される状態が見られる。

日本社会全体は、「異文化理解能力」と日本型「同調圧力」のダブルバインドにあっている。

平田氏は、いまの子どもや若者にコミュニケーション能力がないとは思っていない。

そもそもコミュニケーションの方法にもいろいろあって、
たとえば身体による表現は、中高年男性よりも若者の方がよっぽど優れているという。

しかも、いま日本で求められている「コミュニケーション能力」と呼ばれるものの大半は、
ほとんどがスキルやマナーの問題であり、教育可能なものである。

ただし、コミュニケーション能力=ペラペラしゃべることではない。

価値観や生活習慣なども近い親しい者同士のおしゃべりである「会話」と、
あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換、
あるいは親しい人同士でも価値観が異なるときに起こるその摺り合わせである「対話」とは違う。

日本社会の「わかりあう文化」「察しあう文化」においては、
この「対話」の習慣や訓練が成り立っていないのではないかと平田氏は指摘する。

異なる価値観を持った人と出会うことで、自分の意見が変わっていくことを潔しとする態度、
議論をすること自体に意義を見いだす「対話的精神」を養っていく必要があるのでないかという。
これは、AかBかで論戦をして相手を打ち負かすこととも区別される。


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◇◇◇

言葉や表現というのは、関係がなければ生まれないという指摘も非常に納得できる。

例えば、男性上司の部下に対する言葉づかいを女性上司が部下にすると違和感がある。
それは、そのような関係性が最近までなかったからである。

では、男女関係なく、きちんとした場で上下関係なく使っておかしくない言葉遣いはと考えると、
少し丁寧な、きちんとした言い回しだろうということになる。
ならば、みながそうしたきちんとした言い回しを定着させていくのが適当であろう。

そうした実践が、無意識のうちにある上下関係や性差を越えて
「対話」や議論のできる関係性や場をつくっていくのである。

◇◇◇

この点は、我々の業界(大学教員同士)は相対的にマシだと思う。
良くも悪くも一国一城の主的な意識が強く、それぞれの専門性に敬意を払う習慣があるので、
職階とか性差によって言葉づかいを変えることはほとんどない。
お互いにきちんとした言葉で話し合える環境、議論できる環境は、誰にとっても心地よいと思う。

◇◇◇

では、「対話」ができる関係性をつくるようなコミュニケーション教育とはどうあるべきか。

国語教育では「きちんとしゃべれ」「論理的にしゃべれ」「無駄なことは言うな」と指導しがちだが、
「無駄を省く」ようなことばかりを指導していてはいけないのではないか、
「対話」はそういうものではないという指摘には軽くショックを受けた。

さらに、教える側や上司が、つい「答え」を言ってしまったり誘導してしまったり、
子どもや若者や部下が話しかけやすい・言葉を発しやすい場をつくりもせずに
今の若者はコミュニケーションできない、意見も言わない、などと言うのは、
(上司の側に)そうした環境を作る能力がないことの表れだという指摘には反省した。

「協調性」(価値観を一つにして一致団結)から、
「社交性」(価値観はバラバラなままでどうにかしてうまくやっていく能力)へ、
という考え方は私もまさにそのように考えて、そう意識して授業をしてきたが、
どうもうまくいかない場面が生じたとき、コミュニケーション能力と人格を混同し、
どうすればうまくいくかという追究を諦めてしまっていたかもしれない。

これまで以上に、スキルの問題、マナーの問題、教える側の力量の問題として、
コミュニケーション教育の見直しをはからねばと思う次第である。





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by chekosan | 2017-02-26 23:11 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)