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by chekosan

平田オリザ『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書 2016)

平田オリザ氏は世界で活躍する劇作家、演出家で、教育者である。
先日、京都で開かれた国際教養学会の特別講演を聞きに行った。


題目は「教養としてのコミュニケーション能力」。
「グローバルコミュニケーション力」をつけることが急務だと言われているが、
コミュニケーション力とは一体何なのか、
エレベーターで外国の方と一緒になったときにハローと英語で話しかけることなのか。
いやそうではない、人に話しかけるということは、その地の文化や、その人の社会階層的なもの、
居合わせた人たちの関係性やその場の状況によって変わるものであろう、というお話から始まった。

では、どういう状況であれば、人はどう振舞うのか。
ちょっと想像してみること、そして、他人の状況や立場に思いを致すこと、
まったく一体になろうとしなくてもよい、共感しようとすること、
その共感の幅を広げることがコミュニケーションであり、異文化理解である。

平田氏は、演劇を取り入れたワークショップや地域活性化支援で全国津々浦々を駆け巡り、滞在し、
現地の子どもや大人と交流を重ねている。それこそ離島やへき地の小さな学校にも足を運ばれている。
その経験や手腕を買われて、いくつもの大学の新学科創設や入試改革にも携わっておられる。

本書では、そうした各地での実践内容や成果について詳しく紹介し、
日本の国のありかた、地方のまちづくりや、これからの教育のゆくえについて論じている。


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◇◇◇

私たちはすでに下り坂を下りている。日本はアジア唯一の先進国ではない。
この先、人がどんどん増え、右肩上がりに経済が拡大していくことは望めない。
その事実や寂しさに向き合うことを恐れる人々は、人を妬み嫉み憎むことでごまかしている。


地方から人が出て行ってしまう、新しい人が増えないという焦りは募るものの、
その対策はいまだに工場誘致であったり、住宅建設であったりする。

しかし、地方から若い世代が出て行ってしまうのは、実は雇用が少ないからという理由ではないという。
「つまらない」からであるというのである。文化的な刺激がない、偶然の出会いがないからである。

それなら、つまらなくないまちにすればよい、センスを磨けばよい。
選んでもらうまちをつくるには、自己肯定感を引き出すような、広い意味での文化政策と
ハイセンスなイメージづくりが必要なのである。

とりわけ、子どもが小さいころから本物に触れる機会を設けることが重要である。
それもシャワーのように浴びせかけないと、
地方の子どもたちは、いろんな機会が溢れている都市の子たちに太刀打ちできない。

なぜなら、これから必要とされるのは単純な知識量ではないからである。
言われたとおりに動くだけならば、代わりはいくらでもいる。
代わりは人間でさえない。AIで置き換えられるのである。

平田氏は、問題解決能力よりもさらに、問題を発見できる能力が必要だと言う。
それには幅広い視野と、人の状況に思いをはせる力が必要なのである。

ところが、そうした能力やマナーや振る舞い、
ー つまりそれこそがコミュニケーション能力なのだが ー

それを養うには、20歳ごろまでの環境が大きく影響するのである。

小さいころから本物を見たり触れたり体験したりすること、
それによって身体感覚(例えば味覚やセンスなど)を養うには、しかし、
首都圏と大都市圏、地方都市と都市でない地域で、相当に機会の差がある。
そのような「文化資本」の地域格差は何倍どころか、百倍くらい違うという。

さらに、「文化資本」は、家庭の経済状況や親の文化的な習慣にも大きく左右される。
地域格差と経済格差が掛け合わされると、圧倒的な差ができてしまう。

では地方には救いがないのかというとそんなことはない。
本書で平田氏が紹介している自治体や大学などは、いずれもかなりハンデがある地方だが、
新しい文化の拠点、新しい試みが成功しているところとして、
日本中から、世界から、注目を集めている。

◇◇◇

以上は、私がもっとも惹かれた部分を簡単に記したものなので、
詳細はぜひ本書を読んでいただきたい。
わかりやすい文体で、さらさらと読むことができる。おすすめの一冊。







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by chekosan | 2017-02-20 19:10 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)