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by chekosan

佐藤優『君たちが知っておくべきこと 未来のエリートとの対話』(新潮社 2016)


佐藤優氏の著作は何冊か読んでいます。
少し上の世代の大学の先輩で、チェコやロシアの専門家なので、
すべてではないにしても、いろいろな点で理解、共感できる点が多いです。

『君たちが知っておくべきこと 未来のエリートとの対話』は、
2013年から15年にかけて、佐藤氏を訪ねてきた灘高生たちとの対話を収録したものです。

サブタイトルにあるとおり、次代のエリート候補生たちに、
エリートはどうあるべきか、どのような勉強をするべきかを伝える本です。

佐藤氏、とてつもない知識量と記憶力をもって手加減なく話を進めますが、
それについていけるスーパー高校生たちにも舌を巻きます。

といっても、帯の「vs」は売り文句であって、対決しているような雰囲気はありません。
むしろ、優れた能力と意欲を持つ若い人たちに健全に成長して活躍していってほしいという、
あたたかいまなざしを感じる対話になっています。

以下は、私が面白いなと思った箇所のメモです。


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はじめの方で、佐藤氏は、「政治家が動くのは、名誉か利権」ときっぱり断言します。
ではそれを信頼してしまうのはなぜか。

佐藤氏は、ルーマン『信頼 社会的な複雑性の縮減メカニズム』、
ハーバーマス『晩期資本主義における正当化の諸問題』の理論を引いて説明します。

私たちは複雑なシステムの中で生きています。
それらを一つ一つ、自分で解明し検討することはできません。面倒でもあります。
そこで「誰か」の言うことをとりあえず「信頼」することで、複雑性を縮減するのです。

そして、それが続くと「順応の気構え」が出てきて、何事にも順応してしまう。
一度信頼すると、おかしいのではないかと思ってもなかなか突き詰められなくなります。
なぜなら、信頼した人に裏切られたと意識すると自分が情けなくなるからです。


複雑性といえば、このところ続けて読んでいたミラン・クンデラが、
「小説の精神」とは「複雑性の精神」であると書いていました。(『小説の技法』)

どちらかが正しい、誰かが正しいと断じるものではなく、
人間が相対的なものであることを許容し、その複雑性を尊ぶものであるというのです。

それに比して、「時代精神」は単一のものや、みんなに受け入れられやすいことを求めます。
とりわけメディアは今日性ばかりを追求し、人間の営みを単純化してしまう。


佐藤氏も(表現は若干違いますが)そうした単純化の傾向を危ぶんでいます。
そして、そうした単純化の発現ともいえる「反知性主義」を批判します。

ここでの「反知性主義」とは、知識のあるなしには関係なく、
たとえ知識があっても、それらをどう有機的につなげて、いかに人を救うかを考えないような、
そして、実証性や客観性を無視して、
とにかく「決断できる」ことや人を求めるような言動を指します。

同じような傾向を、斎藤環氏は「ヤンキーの情緒」と表しています。
論理よりもとにかく心情重視、狭い人間関係重視の言動であるとしています。

ではそんな「反知性主義」にどう対抗するか、どう振舞うべきか。

そこで出てくるのが「上から目線」という表現です。
この表現は、実力能力もないのに勘違いで人を見下すとか威張るときに使われますが、
佐藤氏がここで言っているのは、もちろんそういう意味ではありません。

自分とは関係がないと思えるようなジャンルもフォローし、
物事を突き放して見る、俯瞰する、メタな視点で見ることを意味しています。

それはつまり、教養を身に着けるということです。
そのためには幅広い分野の本を読むこと、それも良いものを読むよう勧めます。

また、よい先生につくこと、切磋琢磨できる友をもつこと、
自分が競争が好きであることを認めること、
でも優れた友の特性や長所を認めて、潰し合わないことも説きます。

そして、学校の勉強を無駄だと思わないこと、無駄だと思うものは結局残らない、
動機づけが重要なのだということも繰り返し説きます。

まったく同感です。



いやそれにしても、佐藤氏の読書量、勉強量、記憶力は尋常ではないですね。
そして、灘高生のお礼状がまた恐ろしくよく書けています。。。(@_@)

そのまますくすくと、幅広い視野と、深い思考と、人間への寛容な理解をもって
世界で活躍していってほしいものです。
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by chekosan | 2017-01-15 15:43 | 読書記録 | Trackback | Comments(0)